親たちの中学受験体験記Vol.5 まさかの連続で海城中学校へ。挫折を乗り越え掴んだ合格


編集部
塾選ジャーナル編集部
子どもの頑張りを見守るしかない保護者という立場に、葛藤している方も多いのではないでしょうか。まさかの不合格や、初めて見る息子の表情…。さまざまな気持ちを抱えながら子どもの受験を乗り越えた保護者にインタビューを行い、保護者の視点から中学受験のリアルをご紹介します。
この体験記で進学した学校:海城中学校
【保護者プロフィール】
お名前 | 高杉 弥生(仮名) |
---|---|
お住まい | 東京都武蔵野市 |
年齢 | 53歳 |
職業 | 会社員 |
性格 | 芯が強く、言動に裏表のないサバサバした性格 |
家族構成 | 夫、長男(高校1年生)、次男(中学2年生) |
【中学受験を行った子どものプロフィール】
子どもの名前 | 高杉 湊斗(仮名) |
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性別 | 男子 |
現在通っている学校名 | 海城中学校 |
現在の学年 | 中学2年生 |
受験時にしていた習い事 | 中学受験専門塾 |
得意科目 | 国語、算数 |
苦手科目 | 社会 |
性格 | 社交的でリーダー気質、楽観的でくよくよしない。 |
受験結果 | 麻布中学校 不合格 海城中学校 合格 本郷中学校 合格 栄東中学校 合格 |
小学校入学時から中学受験を意識。第一志望は麻布中学校
―最初に、中学受験をすることにしたきっかけ・理由を聞かせてください。
中学受験を見越して、小学校から私立の学校を選びました。通っていた学校が中学校からは女子校になることもあり、小学校が決まった時点で中学受験をすることは自然な流れでした。
―中学受験を意識した上で小学校も選ばれたんですね。
そうですね。学校は学びの場であると同時に、社会性を育む場所でもあります。私と夫は公立の小・中・高に通っていたのですが、中高それぞれの3年間はとても慌しかった気がします。例えるなら 、2泊3日の旅行のような感覚。1日目と3日目は移動に取られて、ゆっくり楽しめるのは2日目 だけ、というような。
その点、小学校の6年間はしっかり楽しめた記憶があります。だからこそ、子どもには「小学校6年+中高6年」というふうに、どのステージでも落ち着いて学生生活を満喫してほしいと思いました。
―お子さんの志望校選びは、どのように進められましたか?
基本的には息子の意見を尊重して進めました。のびのびとした性格なので、第1志望には自由な校風の麻布中学校を選びました。第2志望は、海城中学校。うちには子どもが2人いるのですが、海城中学校は兄が通っている学校でもあります。
麻布中学校は自主性を重んじる教育方針が特徴的な学校で、自分の意見をしっかり言え、誰とでもすぐ打ち解ける息子には合っていると感じていました。本人も「行きたい」と希望していたので、ぜひ受からせてあげたいと思いました。
―麻布中学校と海城中学校のほかには、本郷中学校と栄東中学校も受験されましたね。
はい。この2校については、私が塾の先生と相談して日程を組みました。中学受験では第1志望に合格する子は3分の1とも言われています。だからこそ、最も力を出せるスケジュールを組みつつ、不合格だった場合の備えもしておく必要がありました。
―具体的には、どのようにして受験校を絞っていかれたのですか?
息子の希望も確認しつつ、親の目線でどう転んでも納得できる結果になるよう戦略的に日程を立てました。日程のバランスや合否発表のタイミングも加味しながら選んでいきました。
ライフスタイルに合わせた塾選び。個別指導塾で偏差値の呪縛を払拭
―受験勉強はどのように進めましたか?
小学2〜3年生の頃は日能研に通い、国語と算数を学びました。4年生からは小規模な集団指導塾である 啓進塾に切り替えて、国・算・理・社の4科目を学びました。
中学受験の進学塾には、「家庭での学習フォローを前提とする塾」と、「塾で学習を完結させる塾」の2タイプがあります。私はフルタイム勤務だったので、後者の啓進塾を選びました。
―塾はご自宅の近くで?
いいえ、自宅近くにも塾はありましたが、同じ学校の子が多く通っていたため、成績の序列が学校生活に影響することを心配していました 。ですので、あえて大手ではない、少し距離のある塾を選び、周囲を気にせず学べる環境を整えました。
―啓進塾は息子さんに合っていましたか?
とても合っていたと思います。少人数で、生徒の個性を丁寧に見てくれる塾でした。偏差値ではなく、塾独自の過去データを活用して、一人ひとりに合った指導をしてくれたのが印象的でした。
偏差値に振り回されるのは、親にとっても大きなストレスです。1下がっただけで動揺してしまう。啓進塾はそういった“偏差値の呪縛”から親子を救ってくれた場所でした。
―啓進塾に通いはじめてから、息子さんの勉強の様子や成績に変化はありましたか?
暗記が苦手で社会では下のクラスに落ちる こともありましたが、他の教科では最上位クラスをキープしていました。「このクラスにいたい」という気持ちが本人のモチベーションになっていました。予習・復習の習慣も身についたと思います。
―「塾で学習を完結させる塾」という観点で選ばれたとのことでしたが、保護者として塾への満足感は高かったですか?
「塾の方で主導権をもって学習面のサポートをするから、保護者は家であまりカリカリしないでね」というのが塾側のスタンスでした。とはいえ、必要な際は個別にご連絡をいただくなど、塾と保護者の連携もしっかりしていたので安心して通わせることができましたね。
―中学受験を控えている保護者同士でお話しする機会はありましたか?
通っていた小学校の特性上、男の子は全員中学受験をするという環境でした。仕事の合間を縫ってランチをしたりお茶したり、定期的に集まることもありましたね。私立の学校なので住んでいる地域もバラバラなのですが、割と集まりは良かったように思います。
ーみなさん受験生の母ということで、気持ちを分かり合えるというか。
模試など受験に関する情報や塾の情報を交換したり、たまっているストレスを吐き出したり。同じ悩みを持つ者同士、お互いに励まし合えるありがたい存在でした。
親として一番気になるのは、いかに子どものモチベーションを保つかということです。 小学6年生とはいえまだまだ幼い我が子に、頑張り切った者だけが見える世界を見せてあげたい。そんな思いで見守っています。
学力面というよりもメンタルの支え方について話すことが多かったです。
万全の状態で挑んだ本番。しかし予想外の結果に…
―ここからは受験本番のお話を聞かせてください。受験にはどのような日程で挑まれたのですか?
まず、1月に栄東中学校、2月の受験では体力を消耗する午後受験は辞めて、1日1校に絞って受験するという日程を組みました。
本命は2月1日の麻布中学校。2月3日の午後に麻布中学校の結果が出るので 、2月2日に本郷中学校で合格をいただいた上で、2月3日の海城中学校を受験するというスケジュールでした。
─戦略的に日程を決められたのですね。
2日の本郷中学校は、当日19時には結果が出る予定でした。ここで合格をもらえれば安心して3日の海城中学校に挑めます。そしてその流れに乗って3日の麻布中学校の合否を受け入れることができる、と考えたんです。
最後に受けたSAPIX模試では 麻布中学校の合格率は60%でした。確率としてはほぼ半々、一か八かでした。だからこそ、3日の海城中学校は絶対に落とせないと考えていたんです。
―2日の本郷中学校の受験は、どのような気持ちで迎えられましたか?
本郷中学校については、これまでの模試でも合格ラインを十分超えていたため、本人も私も心配していませんでした 。
実際に試験を終えた息子は軽やかな表情を浮かべていたので、「2日目はクリアした」と胸を撫で下ろしました。
―結果はいかがでしたか?
本郷はその日の夜に結果が出たのですが、まさかの「不合格」でした。本当に驚きました。不合格通知を見てすぐに塾へ電話をしましたが、先生もまったく予想していなかったようで、しばらく絶句されていました。
実は、本郷中学校の試験当日、息子は受験票を家に忘れてしまっていたんです。
自立を促す意味で受験票の管理は本人に任せていたのですが、受付に並んでいるときに「忘れた」ことに気づいた始末で。 先生が親切に再発行してくださって事なきを得たのですが、今思えば少し気持ちが弛んでいたのかもしれません。
本郷中学校で味わった挫折。心強かった兄の支え
ー予想外の展開だったんですね。
本郷中学校が不合格だったと知ると、兄もさすがに心配になったようで。その日の夜、「明日は絶対全力を出せよ!寝る前にもう1回だけ過去問をやろう」と声をかけて一緒に過去問に取り組んでくれました。翌日は兄も学校まで付き添ってくれて、試験会場に向かう弟の背中に大きな声で「がんばれ!」とエールを送ってくれました。
―海城中学校の受験はいかがでしたか?
試験を終えた息子の顔色は良く、すっきりとした顔で「今まで解いた海城の過去問の中で 一番できた」と言っていました。前日のこともあって私としては不安もありましたが、ひとまず希望が繋がったと祈るような気持ちでした。
―海城中学校の受験日は麻布中学校の合否発表日でもありましたよね。
はい。試験後、験担ぎの意味も込めて兄の受験後に立ち寄った お蕎麦屋さんでお昼を食べ、その後別のカフェに入って15時の合格発表を待ちました。
あっという間に15時になり、みんなで一緒に確認しようとするものの、私は怖くて直接確認できなくて。私だけ少し離れた場所に移動して、スマホを持っていた兄に代わりに確認してもらい、LINEで結果を教えてもらうことにしました。結果は不合格でした。
─お母さまも息子さんもお辛かったですね…。
結果を知った息子は、唇を噛みしめ真っ白な顔をしていて…。その後、不合格を伝えに塾に向かう息子と一緒に帰ったのですが、電車の中では瞬きもせず、ただ黙って窓の外を凝視していました。きっと目に涙が溜まっていたと思うのですが、私の前では決して涙をこぼすことはありませんでした 。
ー自分の中で感情を整理していたんですかね。
私は塾には付き添わなかったので、先に電車を降りたんです。降りる際に「 先生によろしくね」と声をかけると、小さく頷いただけで行ってしまって。その後、塾で待ってくださっていた先生の顔を見るなり息子は号泣したそうです。
それを先生から電話でお聞きして 、「親の前では泣けなくても、先生の前ではちゃんと泣けたんだな。それだけ先生が親身になってくださっていたんだな」と、塾の先生方への感謝の気持ちが込み上げました。電話口では私も泣きました。先生も泣いていました。
―息子さんにとっては、初めての大きな挫折だったのですね。
兄の姿を見て受験とは何か理解していたつもりでも、兄は第一希望の学校に合格していたので、きっと「自分も合格できる」と思っていたのだと思います。
それだけに、ショックはとても大きかったのだと感じます。親としても、胸が締めつけられるような思いでした。あの日の光景を思い出すと今でも涙がこぼれます。
─海城中学校の受験結果はいかがでしたか。
4日に発表があり、そこでも不合格をいただきました。海城中学の結果は自宅で私が確認しました。息子は少し離れた場所でうつむいて座っていました。
不合格を知った息子の耳がカーっと赤く染まるのを見て、私は何と声をかけて良いのかすら分からず、ただ黙って息子の耳を見つめていました。
まさかの連続を経て海城中学校へ。いま言える「ここでよかった」
―その後、進学する中学校を決めるまでにはどのような経緯があったのでしょうか?
1月に受験した栄東中学校には合格していました。ただ、通学に時間がかかるので通うのは難しいと判断し 、急きょ2月5日の本郷中学校に再チャレンジすることを 決めました。
12人に1人しか受からない厳しい倍率ではありましたが、なんとか最後に合格をいただくことができました。
―本郷中学校に進学するつもりだったのですね。
はい。本郷中学校から合格をいただいてすぐに入学手続きをし、翌朝、共に中学受験を戦ったママ友達と結果報告をし合って互いをを労いました。
そうしたらその最中に、海城中学校から「繰り上げ合格になりました」と電話がかかってきたんです。
――まさに最後の最後で、ですね。
はい。最終的な息子の進学先は海城中学校で確定しました。二転三転ありましたが、今では結果的に良かったと感じています。
―海城中学校での様子はいかがですか?
兄と同じ部活に入り、学校生活を思いきり楽しんでいます。
自由な子だから麻布中学校の校風が合うのではと思っていましたが、海城中学校の秩序と自由のバランスが本人にとっても心地良いようです。
どの学年の先生方もとても素晴らしく、生徒一人一人を温かくそして厳しく見守ってくださることが親としても大変ありがたいです 。
ー中学受験を通して、息子さんに良い変化はありましたか?
もともと自分の意思をしっかり持っている子だったので、これといった変化は思い浮かばないですが…。でももしかしたら、「変わっていないこと」が良いことかもしれません。
友だち思いで、リーダーシップがあって。受験でどんなに紆余曲折があろうとも、彼の良い ところが中学入学後もさらに伸びている。それが親としてはとても嬉しいです。
―これから中学受験に挑む保護者に伝えたいことはありますか?
どんなにつらい結果になったとしてもいつか傷は癒えるので心配しないで。とお伝えしたいです。受験はご縁。親にご縁を大切にする気持ちがあれば、子供たちはすぐに現実を受け入れ、与えられた環境で健やかに育ちます。
もちろん、1番行きたい学校に行けるのが理想です。でも、残念ながら全員が 必ずその願いを叶えられるわけではないのが受験なんですよね 。
「望む学校に行けるといいね。でも、もしそれが叶わなかったとしてもあなたは幸せになれるよ」と子どもにちゃんと伝えることが、何よりも大切な親の努めなのかもしれません。
我が家も、次は大学受験が控えています。毎日勉強そっちのけで部活と遊びに没頭する息子ですが、中学受験で得た経験を糧に、どっしり構えて息子の道を応援していきたいと思います。
取材後記
子を見守るお母さまのまなざし、日頃言葉には出さなくても弟を思う長男の優しさに、胸が熱くなりました。息子さんにとって、中学受験は初めての大きな壁。けれどその経験は、これからの人生できっと彼を奮い立たせてくれる原動力になるはずです。
今回お話しを伺った「海城中学校」の受験情報はこちら。
「親たちの中学受験体験記」では、さまざまなご家庭の受験エピソードをご紹介しています。詳しくはこちらからご覧ください。
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