バレエも受験も諦めず、玉川聖学院に合格。叱らず・比べず・脅さず支えた母|親たちの中学受験体験記 Vol.10

「バレエも、受験もあきらめたくない」。バレエを続けながら中学受験に挑んだ娘と、“叱らず・比べず・脅さず”を心がけた母。習い事と中学受験の両立に悩むご家庭にとって、親の声かけや家庭学習の工夫は大きなヒントになるはずです。娘の気持ちを尊重しながら塾と連携し、第一志望・玉川聖学院中等部への合格を実現。家庭でできる中学受験サポートのあり方として読んでおきたい一例です。

編集部
塾選ジャーナル編集部
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【保護者プロフィール】
お名前 | 葉山 類(仮名) |
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お住まい | 東京都世田谷区 |
年齢 | 40歳 |
職業 | 会社員 |
性格 | 在宅勤務をしながら、ワンオペで娘の受験をサポート。 子どもの気持ちに寄り添いながら、冷静に舵をとる柔軟さと芯の強さを持つ。 |
家族構成 | 夫、長女(中学1年生) |
【中学受験を行った子どものプロフィール】
子どもの名前 | 葉山 毬(仮名) |
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性別 | 女子 |
現在通っている学校名 | 玉川聖学院中等部 |
現在の学年 | 中学1年生 |
受験期に通っていた塾 | 栄光ゼミナール |
苦手科目 | 国語 |
性格 | 明るくいつも笑顔。片付けが苦手。 |
偏差値 | 学習開始時期の偏差値50程度 受験時期の偏差値58程度(首都圏模試・合判模試) |
受験結果 | 玉川聖学院中等部 合格(第一志望) 都立富士高等学校附属中学校(不合格) |
大好きなバレエを続けたい。志望校を公立中高一貫校から私立中高一貫校へ
―最初に、中学受験を意識された理由・きっかけを聞かせてください。
正直、全く中学受験をすることは考えていなかったんです。夫は「地元の公立中学でいいんじゃないか」というスタンスでしたし、私も本人が希望しなければ、中学受験をさせる必要はないかなと。
転機となったのは、娘が4年生の頃。学校の同級生やバレエ教室に通うお友達が、たまたま中学受験をする子が多く、受験塾に通い始めたんです。周りのお友達の影響を受け、娘が塾に興味を持つようになり、体験授業に参加してみました。その流れで「中学受験してみようかな」という娘からの一言が、最初に中学受験を意識するきっかけでしたね。
―当時、娘さんはどのような習い事をしていたのでしょうか?
今も続けているバレエ教室のほかに、習字と絵画を習っていました。通塾が週2回は入ってくるので生活面でのバランスを考えて、バレエだけを残した感じです。4年生くらいだとまだスケジュールも混んでいないため、周りのお友達が楽しそうに塾に通っていたので、憧れのような気持ちがあったようです。
―お母様の視点では、中学受験をすることをどう思われましたか?
学校の環境・設備の面が魅力的でしたね。住んでいる地域は子どもの数が多いため、地元の公立中学は「ちょっと狭そうかな?」というのが、もともと気になっていたんです。当初、第一志望と考えていた都立富士高等学校附属中学校は設備が整っていて。中高一貫で6年間、このような環境で学ぶことができるのはいいんじゃないかと考えるようになりました。
あと、「中学に入ってからもバレエを頑張りたい」という娘の気持ちを聞いたのも後押しになりました。バレエを続けられる環境を叶えたかったんです。
―学校選びについては、どのような基準で進められたのでしょうか。
学校説明会には4校ほど参加しました。現地訪問は在校生の様子が見られるのが良かったですね。私は卒業後の進学実績や先生方のご対応のされ方などを気にしていたのですが、娘は学校がきれいか、行事が楽しそうか、先輩が憧れられる存在か…といった感覚的なポイントを重視していたようです。
見ている観点にギャップはありましたが、実際に通うのは娘ですし、受験勉強を頑張って長い時間を過ごす場所になるからこそ、学校選びに関しては本人の気持ちを尊重しようと思っていました。なので、私から「この学校がいいんじゃない?」といったアドバイスはあえて控えて、娘に任せるスタンスで進めていきました。
―第一志望校は、公立の中高一貫校である都立富士高等学校附属中学校から、私立の玉川聖学院に途中で切り替えたそうですね。
はい。もともとは都立の公立中高一貫校を第一志望にしていました。でも、通学時間が長くなってしまうこと、そして入試でのウェイトが大きい作文への受験対策が娘には難しかったことの2点が大きな理由で、娘が気に入っていて通学アクセスの利便性もいい私立への変更を決断したんです。
ただ、夫は最初から「地元の公立で充分」という考えだったので、私立に変更することや学費の負担について話し合うのは少し大変でした。「そこまでして受験する必要があるの?」という温度感の違いを埋めるのに、何度も話し合いを重ねましたね。
最終的には「娘が6年間楽しく通える場所を選ぼう」という共通認識に至り、玉川聖学院を受験することに決めました。
「1回やってみよう」「すごいね」声かけのコツは、ハードルを下げて気分よく取り組ませること
―塾は学校のお友達と同じところに通われていたのですか?
ええ。入塾前にお友達の保護者の方から情報をいただけたので、ありがたかったですね。自宅から自転車で10分ほどの距離にあり、通いやすさも決め手でした。
学校のお友達は途中で違う塾に通い始めたので、結局別々になってしまいましたが、塾内でできたお友達の存在は娘にとってとても大きかったと思います。お互いに誘い合って自習室に行ったり、娘の苦手な漢字の勉強方法のアドバイスをくれたり。何気ないことではありますが、塾の後に広場でジュースを飲んで帰ってくるなど、受験勉強の合間にリラックスして楽しむ時間も持つことができました。最後まで楽しみながら塾に通うことができたのは、お友達のおかげだと感謝しています。
―通塾を開始してどのような点が良かったですか?
塾に通い始めてからは、宿題の期限やルールが割と厳格に決まっていたので、家庭学習の習慣が身についたのが良かった点ですね。算数では問題が解けなくても部分点を取りにいく、国語の作文では思ったことをそのまま書くのではなく読み手の気持ちになる、というような受験ならではのテクニックもご指導いただけたのも助かりました。
―逆に塾に期待する改善点もありますか?
担当してくださっていた国語の先生がすごくお忙しかったようで、娘からお願いをさせていただいた作文の添削の返却が遅かったり、公立の中高一貫校から私立に志望校を変更した際に私立中学の情報が得にくかったりと、塾との連携に少し不安を感じることもありました。
でも、理系の先生と娘は相性が良くて、「この問題をすぐに解ける子なんていないよ」といった声かけに励まされていました。その先生からもらった計算プリントを毎日やるようになってから、算数に自信が持てるようになってきたようです。
―娘さんは抵抗感なく受験勉強に取り組めていましたか?
最初の1カ月くらいは意欲的に頑張っていましたが、やはり慣れてくると飽きてしまっている様子はありましたね。例えば、「毎日漢字練習をする」という塾の宿題が溜まってしまって、週末に遊ぶ時間を削って勉強しないといけないときでも、不満そうにしてなかなか始めようとしなくて…娘1人で自走できたわけではなかったです。そんなときは、声をかけて机に向かわせるようにしていました。
―お母様から声かけをする際に、気を付けていたことはありますか?
娘にはもともと家で勉強する習慣があまりなかったので、まずは「勉強すること自体に前向きな気持ちを持ってもらう」ことを重視していました。
意識して使っていたのは、「1回やってみよう」という言葉。やる気がなさそうなときでも、「漢字を1文字、2文字でもいいから書いてみたら?」と促すと、徐々に集中して最後までやり切ることが多かったんです。最初の取っ掛かりのハードルを下げてあげるのが大事なんだろうなと思いましたね。
あと、伝えていたのは「やるときは集中してやる」ということです。「長い時間ずっと机に向かう必要はないから、勉強する時間は、スマホもゲームも全部手離して集中してやろう」と。
「これが終わったらおやつにしようか」とちょっとしたご褒美を用意したり、夕飯の後は眠たくなってしまうのでゲームをする時間にして、お風呂上りに短時間だけ勉強したり、ガチガチに時間を決めるというよりも、日常生活の区切りの中に自然に勉強の時間を組み込むようにしていました。
―娘さんを上手にやる気にさせていたんですね。
机に向かって勉強しているフリをされても困っちゃうなと思っていたので、いかに気分よく取り組んでもらうか、を重視していました。娘にハマったのは、叱るのではなくできたことを褒める作戦。「こんな短時間でこんなに問題が解けたの?すごいね!」「このペースならあと10分で宿題全部終わっちゃうんじゃない?やってみれば?」なんて声をかけることで、娘も前向きになれた気がします。
逆に、気を付けていたのは「宿題しないと塾の先生に怒られちゃうよ」など、脅すようなことは言わないこと。娘がしんどそうなときには「どう頑張っても宿題が終わらないとか、困ったときにはママから塾の先生に話してあげるよ。大丈夫だから、やれるところまでやってごらん」と伝えていました。できないことに気を取られるよりも、今できる範囲でやれることはしっかりやる、という意識を持ってほしかったんです。
―中学受験期間中、お母様が一番つらかったこと、苦労されたのはどんなことですか?
塾の先生との面談で、ほかのお子さんと比較される言葉を聞くことですね。もちろん、先生も嫌な気持ちにさせようと思って言っているわけではなく、伸ばす意図で言ってくださっているのはわかるんです。でも、地道にコツコツやることが苦手な娘と、得意なお子さんとを比べられてしまうと、親としてはやっぱりつらくて…。
娘にはそのまま伝えないようにしていましたが、気づけば「なんであなたはできないの?」と言いたくなってしまう自分がいて、その気持ちを抑えるのが苦しかった時期もありました。
―その葛藤を、どのように乗り越えられたのでしょうか?
今この瞬間だけで判断せず、もっと長い視野で娘を見てあげたいなと思いました。例えば、バレエは3歳からずっと続けていて、コツコツ積み上げる力は本来持っているんです。今たまたま勉強の面ではそう見えないだけなんだ、勉強という一面だけを捉えて娘を否定するような考えを持たないようにしていました。
バレエも受験もあきらめなかった小6の夏。悔しい気持ちがやる気に火をつけた
―受験勉強をサポートするにあたって、勉強一色にならないように…という思いはありましたか?
受験で結果を出すのはもちろん大事なことですが、「中学受験だから、まだどうにでもなる」という気持ちはありました。結果がどうあれ、娘にとって目標に向かって努力するという経験がプラスになればいいと思っていたんです。お友達と過ごす時間や好きなバレエに打ち込む時間も大切にしてほしいと思っていましたし、生活に偏りが出ないようバランスには気を配るようにしていましたね。
―受験勉強とバレエの両立は大変だったのでは?
受験勉強とバレエの両立の大変さが身に染みたのは、6年生の夏でした。8月にバレエの発表会があり、同学年の受験組の子たちは出演を見送る子が多かったのですが、娘は「出たい」と言って出演することに決めたんです。
夏休みは、本人なりに受験勉強との両立を頑張っていたのですが、やはり周りとの差が広がってしまい9月の模試で大きく成績が落ちてしまったんです。模試で思うような結果を出せず、受験勉強を始めてから初めて涙を見せる娘の姿を見るのがつらくて、親子ともにかなり落ち込みました。
―そのとき、娘さんにはなんと声をかけましたか?
「間違えることは誰でもあることだし、間違えたところを見直せばいいんじゃない?時間もまだあるし、できないことに気づいたんだから、それで大丈夫なんだよ」というようなことを言いました。実際は、ギリギリのタイミングではありましたが、ようやく娘も私も本気になった気がします。
悔しさがバネになったのか、秋以降は自分から「ここまでやる」と決めて勉強に取り組むようになり、成績も少しずつ回復していきました。今となっては、大きな成長の機会になったと思います。
―結果重視ではなかったというお話がありましたが、受験本番が近づくにつれて、お母様のお気持ちに変化はありましたか?
もちろん、ありました。特に6年生の秋以降、本人が自覚を持って勉強に取り組んでいる姿を見ていると、「これだけ頑張っているのだから、娘が合格通知を見て喜んでいる姿を絶対に見たい」という気持ちを強く持つようになっていきましたね。
本番直前、プレテストが効果的な予行演習に
―結果は見事、第一志望の玉川聖学院に合格。積極的にプレテストにも参加されたそうですね。
はい。玉川聖学院のプレテストでは、今年の傾向や出そうな問題をかなり詳しく教えてくださいました。実際、入試本番でも似たような問題が出たらしく、とてもいい予行演習になったと思います。
―受験本番を迎えたときのお気持ちはいかがでしたか?
直前模試で合格判定をいただいていて偏差値的にもそこまで高いハードルではなかったので、そこまで心配はしていませんでした。でも受験というのは何があるかわからないので、とにかく本来の力を出し切ってくれたらいいなと。
―中学受験を振り返って、親として今何を思いますか?
玉川聖学院に入学した今、勉強にも部活にも前向きに学校生活を送る娘の姿を見ていると、受験の経験を通して自分の意志で行動する力、壁にぶつかったときに立ち直る力が育ったように感じます。
これからも娘はどんどん大きくなって、私たちから巣立っていきます。今振り返ってみると、親子でタッグを組んでこれだけ近くで娘をサポートする経験は最後だったのかもしれないという思いが込みあげてくるときがあります。「娘の充実した学生生活」という同じ目標を持って、家族みんなでコミュニケーションをとりながら過ごした時間はとても尊い時間でした。大変だったけれど、「やってよかった」と胸を張って言えますね。
取材後記
塾や志望校選び、日々の声かけ…中学受験には迷いがつきものです。そんな中で「娘の気持ちを尊重する」という軸を持ち続け、信じて寄り添ってきたお母様の姿勢には、深い共感を覚えました。
特に印象的だったのは、“叱らず・比べず・脅さず”という声かけの工夫。気分よく、前向きに取り組ませる工夫には、親として真似したくなるヒントが詰まっていました。結果よりも過程を大切にし、親子で丁寧に受験という道を歩んできた時間こそが、娘さんの確かな成長につながったのだと感じられる取材でした。
執筆者プロフィール

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