中学受験で子どもが「壊れる」前に…燃え尽き症候群、心身不調のサインと親の対処法

「最近どうも元気がない」「成績が伸びずに自信をなくしているようだ」「寝ても疲れが取れないと言っている」
中学受験に挑戦する子どものそんな姿を見るたびに、親として胸が締め付けられる思いがすることでしょう。
この記事では、精神科医ゆうきゆう先生監修のもと、保護者の不安に寄り添いながら、中学受験という大きな壁を乗り越えるために、親ができる具体的なサポートと、避けるべき行動について解説します。子どもの健やかな成長と、親と子が共に笑顔でこの時期を乗り越えるためのヒントを、ぜひ見つけてください。

編集部
塾選ジャーナル編集部
塾選ジャーナル編集部です。『塾選ジャーナル』は、日本最大級の塾検索サイト『塾選(ジュクセン)』が提供する、教育・受験に関する総合メディアです。保護者が知っておきたい受験や進路情報をお届けします。

監修者
ゆうきゆう
東京大学医学部医学科を卒業。医師業のかたわらマンガ原作者としても活躍。主なマンガ原作に 「マンガで分かる心療内科」(少年画報社)などがある。ゆうメンタルクリニック、ゆうスキンクリニック、ゆうリワークセンター、ゆう訪問看護ステーションを首都圏や関西中心に21拠点展開する。2025年4月にゆうメンタルクリニック名古屋院が開院。(2025年現在)

なぜ壊れる?中学受験が子どもに与えるプレッシャーの正体
中学受験が子どもを「壊してしまう」と感じさせるほどのプレッシャーを与えるのは、その性質上、複数の側面から多大な負担をかけるからです。単に勉強が大変というだけでなく、子どもの心身に深く影響を及ぼすさまざまな要因が複雑に絡み合っています。
「子どもが壊れる」と言われる背景
中学受験の低年齢化・長期化が進み、低学年から塾に通う子も珍しくありません。その結果、子どもたちの遊びや休息の時間は極端に削られています。
また、受験者数の増加による競争の激化も深刻です。周囲との比較や親の期待が「合格しなければ」という強迫観念を生み、子どもの自己肯定感を低下させます。
さらに、SNSなどで他者の成功・失敗談に容易に触れられる情報過多な社会も、親子の焦りや不安を煽る一因です。
中学受験は単なる学力テストではなく、子どもの心身の成長や家族関係が複雑に絡む大きな挑戦です。だからこそ、親が「すべきこと」「避けるべきこと」を知っておくことが、子どもを健やかに導く鍵となります。
学業面でのプレッシャー
まず、学習内容の高度化と膨大な学習量が子どもに大きな負担となります。小学校の範囲をはるかに超える難問に短期間で取り組む必要があり、単なる暗記では通用しない思考力や応用力が問われるのです。
この傾向は、思考力を重視する大学入試改革の影響も受けており、中学受験でも資料の読解といった、多角的な視点を問う問題が増えています。
また、絶え間ない成績競争と順位付けも大きなストレスです。テストや模試の結果が常に数値で示されるため、他者との比較から焦りや劣等感が生まれやすくなります。志望校に対して自分の現在地が常に可視化される状況は、子どもにとって大きな精神的重圧となります。
精神面・生活面でのプレッシャー
精神面や生活面では、まず遊びや休息の不足が顕著になります。塾と宿題に追われて友人と遊ぶ時間や好きなことに没頭する時間がなくなり、ストレスを発散できずに心のバランスを崩しやすくなります。
睡眠不足も深刻です。終わらない宿題などで十分に眠れないと、集中力の低下やイライラを招くだけでなく、身体的な不調にもつながって心身を疲弊させます。
親からの過度な期待や干渉も、子どもを追い詰める大きなプレッシャーです。特に親の不安は子どもに伝染しやすく、心の負担を増大させてしまいます。
さらに、ストレスが友人関係の悪化や孤立感に繋がることもあります。思春期特有の心の揺れと重なることで感情の起伏が激しくなるなど、そのプレッシャーは想像以上です。
子どもが壊れるサインを見逃さない!心身のSOSチェックリスト
中学受験のプレッシャーが過度になると、心身にさまざまなSOSサインを発することがあります。これらのサインは、親が注意深く観察していれば気づけるものがほとんどです。子どもの異変に早期に気づき、適切に対応することが「壊れる」という状態を避ける上で極めて重要になります。
身体的なサイン
以下の症状が表われた場合は、要注意です。
- 頭痛・腹痛・吐き気などの不定愁訴が勉強や塾の前後に続く
- 食欲が極端に落ちる、または過食になる
- 寝つきが悪い、夜中に何度も起きる、朝起きられないなど睡眠障害
- 日中の倦怠感
- 肌荒れ
- 呼吸の浅さ
- 爪を噛む癖
こうした症状が表われた場合、まずはしっかり休養を取り、予定を調整して、小児科や心療内科に早めに相談しましょう。症状が出る時間帯や強さを記録しておくと、診察時に役立ちます。
怠けと決めつけず、子どもが安心できる声かけと遊び時間を確保してください。早期対応が回復を早めます。
ゆうき先生からのアドバイス

ゆうきゆう先生
メンタルの症状が、身体症状として出ることは多々あります。小さな子どもが学校に行きたくないときに「お腹が痛い」と訴えるのに似ています。ウソをついているというわけではなく、気分的な不調が、お腹の痛みとして感じられてきてしまう、というわけです。そんなときも決して責めることなく、できることを一緒に楽しんであげる、などから始めていくのが大切です。
精神的・行動的なサイン
以下の症状があらわれた場合は、要注意です。
- ささいなことで怒る、突然泣き出す、無表情になるなど感情が不安定
- 反抗的態度や会話の拒否
- 好きだった活動への無関心
- 集中力の低下
- 髪を抜く、爪を噛む、皮膚を掻くなどの自傷行為
まずは否定せず気持ちを聴き、勉強を一時中断して安全な環境と達成感を与えましょう。状況が深刻なときは速やかに専門機関へ相談し、カウンセリングや医療的支援を受けてください。家族で散歩や食事を楽しむ時間を増やし、SNSやテスト結果から距離を置く工夫も効果的です。
見守りつつ小さな変化も記録すると助けになります。早めの対策が鍵です。
ゆうき先生からのアドバイス

ゆうきゆう先生
サインの中で「好きだった活動への無関心」というものがありますが、これは人によっては「単に飽きた」「趣味が変わってきた」などとの区別が難しいものです。1つや2つは誰にでもあります。ただ「3つ以上のものが一気に興味がなくなってきた」「そもそも興味を持てるものが何もなくなってきた」「休みの日も、今までは活動的だったのにどこにも行かなくなってきた」などがあれば要注意です。何にせよ、興味が消失していたら「最近どう?」など聞いてみて、一緒の時間を増やすようにしてあげましょう。
壊れるのを避けるために親ができるサポートとNG行動
中学受験において、子どもが心身ともに健康な状態で挑戦を続けられるかどうかは、親のサポートと関わり方に大きく左右されます。合格だけを目標にするのではなく、子どもの成長を第一に考え、適切な支援と同時に避けるべき行動を理解することが非常に重要です。
親の心構えとコミュニケーション
最も大切なのは、子どもへの過度な期待を手放すことです。「こうあるべき」と押し付ければ、常にプレッシャーを感じ自分らしさを失います。現実的な目標を立て、結果だけでなく努力の過程を認めましょう。「頑張ったね」「最後までやり遂げたね」と声を掛けることで自己肯定感が育ちます。
命令ではなく対話を心掛けてください。「今日の塾はどうだった?」と問い、困りごとを引き出しましょう。話したがらないときは無理に聞かず、そばにいるだけでも安心感を与えます。
家庭は勉強の場であり、同時に安らげる居場所です。「失敗しても大丈夫」と伝え続け、必要なら受験をやめる選択も検討しましょう。その際は挫折感が残らぬよう十分に話し合うことが大切です。
学習面でのサポート
子どもの学力や理解度、集中力などを考慮し、達成可能な範囲で計画を立て、必要であれば柔軟に見直しましょう。詰め込みすぎは逆効果です。塾に通っている場合、授業の進め方や宿題の量について相談しましょう。プレッシャーに弱い子どもの場合は、宿題の量を個別に調整してもらえる個別指導塾がおすすめです。
適度な休憩と気分転換の時間を組み込むことも重要です。短時間でも良いので、好きなことをしたり、外の空気を吸ったりする時間をつくることで、集中力を持続させることができます。
自宅での学習環境を整備することも見逃せません。集中できる静かな場所を確保し、スマートフォンやゲームなどは視界に入らないように配慮しましょう。
生活面でのサポート
十分な睡眠は最優先です。小学生は9〜12時間が推奨されるため(※)、夜ふかしや寝る前のスマホを控え、静かな寝室と適温を整えましょう。就寝時間をほぼ固定して体内時計を整えると効果的です。宿題が終わらないときは塾に量の調整を相談してください。
次に食事です。栄養バランスを意識しつつ、子どもの好物を取り入れ、一緒に食卓を囲む時間が心身のリフレッシュになります。
さらに趣味と息抜きの確保も不可欠です。運動、漫画、テレビ、音楽など好きなことを毎日少しでも行い、気分転換できているか観察しましょう。デジタル機器は親子で使用ルールを決め、適度に管理してください。
※厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針の改訂について(案)」
絶対に避けたいNG行動
最も避けるべきなのは、他の子との比較です。「お兄ちゃんはできたのに」「あの子はもっと頑張っている」といった言葉は、子どもの自己肯定感を著しく低下させ、深い傷を残します。感情的な叱責や罵倒も厳禁です。恐怖心を与えるだけではなく、親子の信頼関係を破壊し、子どもを萎縮させてしまいます。
ネガティブな言葉の投げかけも慎みましょう。「どうせ無理」「受からない」といった言葉は、子どものやる気を奪い、不安を増大させます。
塾の宿題や成績への過度な干渉も注意が必要です。子ども自身が主体的に学習する機会を奪い、親の指示なしでは動けない「指示待ち」の子どもにしてしまう可能性があります。
専門機関への相談も視野に
子どもの状態が改善しなかったり、親自身がどうしたら良いか分からなくなったりした場合は、一人で抱え込まず、専門機関に相談することをためらわないでください。
学校のスクールカウンセラーは、子どもが学校生活で抱える悩みやストレスについて、専門的な視点からアドバイスをくれます。身体的な不調が続く場合は、児童精神科医や心療内科医の受診を検討しましょう。専門医は、ストレスが原因で現れる心身の症状を診断し、適切な治療やケアを提案してくれます。
学習面でのつまづきや発達に関する疑問がある場合は、教育相談センターが力になります。お住まいの地域にある地域の相談窓口やNPO法人が、さまざまな支援を提供している場合もあります。
専門家の力を借りることは、決して恥ずかしいことではなく、子どもを守るための賢明な選択です。
中学受験を乗り越えた先輩保護者の声・体験談
塾選ジャーナルでは、受験を終えた保護者にインタビューを行い、保護者の視点から中学受験のリアルをご紹介しています。先輩保護者たちがどのように子どもをサポートし、中学受験を乗り越えたのか。ぜひ参考にしてみてください。
単身赴任中の父がZOOMで母子をサポート
仕事で単身赴任中の父親が、Zoomを活用して主に母親のメンタルケアを担った事例。父親が「一喜一憂しない」とどっしり構え、不安になりがちな母親と子どもの双方を支えたそうです。
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「子どもだけが頑張る受験」をやめて家族で机に向かった日々
「子どもだけ頑張らせるのはかわいそう」と、勉強時間には家族も一緒にダイニングテーブルで読書や資格勉強に取り組んだ家庭の例です。家族で頑張る雰囲気づくりが、子どもの納得感につながりました。
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バレエも受験も諦めず、叱らず・比べず・脅さず支えた母
「バレエも受験も諦めない」という子どもの意志を尊重。一時は成績が落ち込みましたが、叱らずに「できないことに気づけて良かった」と励まし、その悔しさが本人のやる気を引き出すきっかけになったそうです。
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こんな時どうする?保護者のお悩みQ&A
勉強しない子どもに”やる気スイッチ”を入れるコツは?
小学生の子どもが自発的に中学受験の勉強をしないのは自然なことです。学習計画は1週間単位で親子一緒に立て、子ども自身が選んだ形をとると効果的です。
計画は紙に書いて見える場所に貼り、毎回声をかけて促しましょう。モチベーション維持には、ごほうびや「できたこと」の見える化が有効です。保護者は叱るよりも見守り、子どもが説明できるように導く姿勢が大切です。
勉強しているのに伸びない時はどうすれば?
勉強しているのに結果が出ないのは、読解力や処理速度が足りないことが原因です。読解力を高め、算数では計算スピードを上げることが大切です。
対策としては、計算問題を毎日10分、国語の読解を週3回行う反復練習が有効です。また、模試の解説を活用し、効率の良い解き方を理解することが得点力アップにつながります。復習は全てやろうとせず、1科目2~3問に絞って深く取り組むことが効果的です。
保護者が無理にやり方を変えるより、塾に相談するのも一つの方法です。
家族がピリピリした雰囲気に…どうすればいい?
受験を特別視しすぎると家庭内の雰囲気が張りつめ、ストレスの原因になります。受験を「特別なイベント」とせず、「日常の一部」と捉えることで、心の余裕が生まれます。
勉強ばかりでなく、親子で出かけたり、笑えるテレビを一緒に観たりする時間も大切です。また、兄弟姉妹にも意識的に関わり、家族全体のバランスを取ることが必要です。「今日のよかったこと」を共有する習慣も、前向きな気持ちと自己肯定感を育てます。
合否に関係なく子どもを認め、安心感を伝える姿勢が親の大きな支えになります。
その他にもさまざまなお悩みを掲載しています。気になる人はこちらもご覧ください。
志望校合格よりも大切な「心」の成長
中学受験は、確かに子どもたちに大きなプレッシャーをかけます。しかし、サインに早く気づき、適切なサポートをすることで、心身のバランスを保ちながら挑戦を続けることは可能です。無理のない学習計画、十分な休息、そして何よりも親子の温かいコミュニケーションはすべて、子どもが困難を乗り越える力を育む大切な土壌となります。
また、受験の過程で壁にぶつかったり、立ち止まったりすることは、決して悪いことではありません。その経験こそが、子どものレジリエンス(立ち直る力)や自己肯定感を育む貴重な機会となります。子どもの葛藤に寄り添い、一緒に考え、支え合う経験は、親自身の成長にもつながります。
中学受験のゴールは、志望校合格だけではありません。この道のりを経て、子どもが「自分は頑張れた」「パパやママが支えてくれた」と自信を持つこと。そして、親子関係がより強固なものになることこそが、何にも代えがたい最高の財産です。
どうか、合格という結果だけにとらわれず、子どもの「心」が健やかであることこそ、もっとも大切な合格基準だと考えてみてください。この記事が、子どもと保護者の皆さんが笑顔で中学受験を乗り越えるための一助となれば幸いです。
執筆者プロフィール

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東京大学医学部医学科を卒業。医師業のかたわらマンガ原作者としても活躍。主なマンガ原作に 「マンガで分かる心療内科」(少年画報社)などがある。ゆうメンタルクリニック、ゆうスキンクリニック、ゆうリワークセンター、ゆう訪問看護ステーションを首都圏や関西中心に21拠点展開する。2025年4月にゆうメンタルクリニック名古屋院が開院。(2025年現在)