【元大手塾講師が解説】中学受験、低学年でやっておくべきこと5選|家庭学習ロードマップも
中学受験を視野に入れたとき、子どもがまだ低学年だと「今のうちに何をすればいいのだろう」「もう始めないと遅いのでは」と不安を感じる保護者は多いものです。周囲の情報やSNSで目にする「先取り学習」や「低学年からの塾通い」という言葉に心が揺れることもあるでしょう。
しかし、低学年期は知識を詰め込むよりも、学びの基礎を整えることが大切です。この時期にしっかりとした土台ができていれば、高学年での学びが進みやすくなります。土台を軽視して早くから難しい内容に取り組むと、途中で息切れしてしまうケースも少なくありません。
この記事では、中学受験を目指す家庭が低学年のうちにやっておくべきことを、中学受験専門家にしむら先生に解説していただきます。焦りを安心に変え、子どもの「学ぶ力」を長期的に育てるためのヒントをお届けします。
編集部
塾選ジャーナル編集部
塾選ジャーナル編集部です。『塾選ジャーナル』は、日本最大級の塾検索サイト『塾選(ジュクセン)』が提供する、教育・受験に関する総合メディアです。保護者が知っておきたい受験や進路情報をお届けします。
監修者
西村 創先生
早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wingsなどで指導歴25年以上。新卒入社の早稲田アカデミーでは、入社初年度に生徒授業満足度全講師中1位に輝く。駿台ではシンガポール校講師を経て、当時初の20代校長として香港校校長を務め、過去最高の合格実績を出す。河合塾Wingsでは講師、教室長、エリアマネージャーを務める。現在は、セミナー講演や書籍執筆、「にしむら先生 受験指導専門家」としてYouTube配信(チャンネル登録12万人超)などを中心に活動。著書は『中学受験のはじめ方』(KADOKAWA)など多数。 http://www.youtube.com/@nishimurasensei
中学受験、低学年で本当にやっておくべきことTOP5

低学年のうちは、高学年で伸びるための土台を育てることが大切です。では、その土台を育てるために、家庭では具体的にどのようなことに取り組めば良いのでしょうか。
ここでは、にしむら先生が考える低学年のうちに本当にやっておくべきことを、ランキング形式で5つ紹介します。
【第5位】読書習慣をつけること
読書は、すべての教科の基盤となる読解力や語彙力を育てます。ただし、良かれと思った保護者の行動が、かえって子どもを本嫌いにしてしまうこともあります。
読書の目的は、まず「本に親しむこと」です。活字を読む経験を重ねることで、長文を集中して読む力や設問の意図を正確に読み取る力が身につきます。登場人物の気持ちを追う経験は、国語の読解にも直結します。
具体的にはどうすればいい?
西村先生
子どもが「読みたい」と思える本を選ぶことが一番大切です。学習漫画、ゲームの攻略本、図鑑など何でも構いません。まずは「文字を読むのが楽しい」という体験を重ねることが、読書習慣の第一歩になります。
保護者のNG行動は?
教育的価値の高い名作や難しい本を与えてしまうことです。集中力が求められる内容は、読書に慣れていない子どもには負担が大きく「本は難しいもの」と感じてしまう原因になります。
【第4位】運動習慣をつけること
勉強系の習い事や学習時間を優先して運動をやめてしまう家庭も多いですが、受験のことを考えると得策ではありません。
6年生の夏や直前期は、朝から晩まで続く授業やテスト、復習が待っています。これを乗り切るには、集中力や気力だけでなく、それを支える体力が不可欠です。体力がなければ、やる気も集中も続きません。
具体的にはどうすればいい?
西村先生
スイミングや体操など、全身を使う運動を週2回程度続けるのがおすすめです。週1回だと上達を実感しにくく、習慣化しづらい傾向があります。週2回ペースなら上達が早く自信もつきやすく、運動が生活の一部になります。この時期に養った体力は、受験期の学習効率を大きく左右します。
保護者のNG行動は?
低学年から学習を重視し、体を動かす時間を減らしてしまうことです。学力をつけることを急ぐあまり、受験を乗り切るために必要な体力づくりが後回しになりがちです。
【第3位】さまざまな体験をさせること
机上の勉強では得られない、五感を使った体験は、理解を深め、知的好奇心を育てる大切な機会です。
受験内容は、日常の中にある出来事と深く結びついています。理科の「てこ」はシーソーの体験で理解が深まり、社会の地図問題も旅行の記憶とつながることで印象的に覚えられます。実体験は、学習内容を「生きた知識」に変え、記憶に定着させる力を持っています。
具体的にはどうすればいい?
西村先生
特別な体験でなくても大丈夫です。スーパーで野菜の産地を調べる、料理で分量を測るなど、日常の中に学びはたくさんあります。「なぜ?」「どうして?」を親子で一緒に探ることが、すべての学びの入り口になります。
保護者のNG行動は?
休日をテスト対策やドリルだけで終わらせてしまうことです。ペーパー学習を増やしても、必ずしも学力が伸びるとは限りません。むしろ体験の不足が、後の伸び悩みにつながることがあります。
【第2位】学習習慣をつけること
本格的な受験勉強が始まる前に、家庭での学習習慣を整えておくことがとても大切です。
特に中学受験に強い大手進学塾は、家庭での学習習慣が身についていることを前提としている場合が多く、学習習慣がないまま通うと宿題の量に圧倒され、こなすだけで精一杯になります。その結果「勉強はつらいもの」という意識が根づき、勉強嫌いになってしまうこともあります。
具体的にはどうすればいい?
西村先生
いきなり勉強を始める必要はありません。しりとりやなぞなぞ、クロスワードなど、遊びの中で語彙力や思考力を養うことから始めましょう。ゲーム感覚で学べるアプリもおすすめです。重要なのは、毎日少しでも学ぶ時間を生活のリズムに組み込むことです。
保護者のNG行動は?
学習習慣がないまま入塾してしまうことです。「塾に通えば自然と身につくだろう」と思われがちですが、実際にはそうではありません。
【第1位】基礎学力をつけること
低学年で大切なのは、難しい応用問題ではなく、学校で習う内容をしっかり理解することです。
基礎が不十分なまま応用に進むと、理解が浅くなります。また「もう知っている」と思い込んで学校の授業に集中しなくなることもあります。結果として、学年の基礎が抜け落ちてしまうのです。多くの進学塾は学校内容の定着を前提に授業を進めるため、基礎が固まっていなければ対応できません。
具体的にはどうすればいい?
西村先生
まずは学校の学習内容を理解することに集中しましょう。国語の教科書をスラスラ読めるようにする、漢字を丁寧に書けるよう練習する、計算を正確に速く解けるように繰り返す。学校のテストで安定して高得点を取れる状態が理想です。盤石な基礎は、高学年で大きく伸びるための武器になります。
保護者のNG行動は?
保護者の焦りから、子どもの理解度を確認せずに先取り学習を進めてしまうことです。
【学年別】家庭学習ロードマップ|どう実践する?

前章で紹介した「やっておくべき5つのこと」は、低学年全体に共通する指針です。ただし、学年ごとに重点を置くポイントや取り組み方は少しずつ異なります。
この章では、小学1年生から3年生まで、各学年でどのように家庭学習を進めていけばよいのか、そのロードマップを解説します。
【小学1年生】楽しむ体験と「1分習慣」のはじめの一歩
小学1年生の時期は、本格的な勉強よりも学ぶ楽しさを知る準備期間と考えましょう。この時期に重視したいのは「体験」「運動」「読書」です。机に向かう学習は焦らず、まずは少しずつ慣れることが大切です。
学習習慣
「1分だけドリルをやってみよう」など、ハードルをできる限り低く設定します。鉛筆を持つ・机に座るといった行為に慣れることを目標にしましょう。
基礎学力
ひらがなやカタカナを、お手本を見ながら丁寧に書く練習を大切にしましょう。焦って進むより、正しい書き順で整った字を書く意識を育てることが、後の学習の基礎になります。
心がけたいこと
学習の成果よりも「週末に公園で思い切り遊ぶ」「親子で本を読む」といった時間を優先しましょう。この時期は、知的好奇心の芽を育てることが大切です。
【小学2年生】習慣を定着させ、基礎を固める
1年生で始めた小さなステップを、毎日の習慣として定着させるのが2年生のテーマです。少しずつ学習時間を増やし、この学年で身につけるべき基礎をしっかり固めましょう。
学習習慣
「毎日15分」などの目標を設定し、学習を生活のリズムに組み込みます。決まった時間に机に向かう習慣ができると、高学年での自学自習がスムーズになります。
基礎学力
この学年で特に重要なのは「かけ算九九」と「新しい漢字」です。どちらも今後の算数や国語の基礎となるため、繰り返し練習して確実に定着させましょう。
心がけたいこと
学習時間や量を親子で一緒に決め、できたらしっかり褒めること。この約束と達成のサイクルが、子どもの自己肯定感を育て、学習習慣の定着につながります。
【小学3年生】塾を意識し、学習の「質」を高める
4年生からの入塾を考える家庭が増えるこの時期は、学習の「量」から「質」へ意識をシフトする段階です。
本格的な受験勉強へつながる、大切な橋渡しの学年です。
学習習慣
ドリルを解くだけでなく「なぜそうなるの?」と問いかけて、考える習慣を促しましょう。体験と学習内容を結びつけることで、知識のつながりを実感でき、思考力が深まります。
基礎学力
目標は、学校のテストで常に90点以上を取れるレベルです。ケアレスミスを減らすための見直し習慣や、分からない問題をそのままにしない姿勢を身につけましょう。これが塾での学習にも大きく役立ちます。
心がけたいこと
中学受験について少しずつ話してみるのも良い時期です。前向きなイメージを持たせることで、4年生からの勉強へのモチベーションを高めることができます。
低学年でやってはいけないNG行動

子どもの将来を思うからこそ、つい力が入りすぎてしまうのが中学受験の準備です。しかし、良かれと思ってやったことが、長い目で見ると子どもの成長を妨げることもあります。この章では、低学年のうちに特に注意したい4つのNG行動をまとめました。
NG行動①基礎を固める前の先取り学習
よくあるのが、学校の授業より先の内容を学ばせる先取り学習です。一見すると意欲的な取り組みに思えますが、基礎が十分に定着していないまま進むと、知識がバラバラになり、体系的な理解ができません。
その結果、応用力が身につかないだけでなく、わかったつもりになって授業への集中力を欠く原因にもなります。まずは、今習っている内容を完璧にすることを優先しましょう。
NG行動②保護者が一方的に決める強制的な学習
「この本を読ませたい」「このドリルをやらせたい」と、保護者が一方的に内容を決めてしまうのも逆効果です。
子どもが興味を持っていない分野を無理にやらせると「勉強=つまらない」「親に言われたから仕方なくやる」といったネガティブな印象を植えつけてしまいます。
低学年のうちは、好奇心が原動力になります。子どもが「面白い」「もっと知りたい」と感じる瞬間を大切にし、学ぶことへの前向きな気持ちを育てていきましょう。
NG行動③学力を急ぐあまり、体験と運動をおろそかにする
学習時間を確保するために、外遊びや運動系の習い事をやめさせてしまうのは、長期的には得策ではありません。
体験活動は、机の上の勉強では得られない思考力や知的好奇心を育てる大切な機会です。また、運動は、長時間の学習に耐えられる体力と集中力を養ううえで欠かせません。
目先の学習時間を優先するあまり、子どもの心と体の成長に必要な「土台づくり」の機会を奪ってしまうと、結果的に高学年での伸び悩みにつながる可能性があります。
NG行動④準備不足のまま塾に丸投げする
家庭での学習習慣ができていないうちに、塾に入れれば何とかなると考えるのは危険です。
多くの進学塾は、すでに家庭での学習習慣があることを前提にカリキュラムを組んでいます。準備不足のまま入塾すると、授業のスピードや宿題の多さに対応できず、子どもが自信をなくして勉強嫌いになってしまうこともあります。
塾はあくまで、家庭で築いた基礎の上に力を伸ばす場です。まずは家庭で学ぶリズムを作り、その土台の上で塾を効果的に活用していきましょう。
低学年のうちにやっておくべき中学受験対策FAQ

これまでの内容について、保護者からよくいただくご質問にお答えします。
先取りは絶対ダメですか?子どもがやりたがる場合はどうすればいいですか?
子ども自身が「もっと知りたい」「難しい問題に挑戦したい」と強い興味を示す場合は、その意欲を尊重することも大切です。
ただし、今の学年内容をしっかり理解していることが前提です。保護者が難しい問題集を買ってどんどん先に進ませるのではなく、今ある知識を深めることを意識しましょう。
たとえば、算数なら思考力を鍛えるパズルや論理問題に挑戦する、理科なら図鑑を読んだり科学館に行って興味を広げるなどがおすすめです。
重要なのは、知的好奇心を尊重しつつも、学校の学習をおろそかにしないこと。「学ぶことは楽しい」という感覚を保ちながら、今の学びを深める方向に導いてあげましょう。
おすすめの運動系の習い事はありますか?
特定の競技が有利ということはありません。低学年では、全身をバランスよく使いながら、基礎体力と運動能力を育てることが大切です。
具体的には次の習い事があげられます。
スイミング
心肺機能を高め、全身の筋肉をまんべんなく鍛えられます。ケガが少ないのも魅力です。
体操教室
体幹・柔軟性・バランス感覚など、あらゆるスポーツの基礎を養えます。
もちろん、子どもが夢中になれるものであれば、サッカー・野球・ダンス・武道なども適しています。大切なのは、子ども自身が楽しく続けられることです。いくつか体験授業を受けてみて、子どもの反応を見て決めましょう。
共働きで体験活動に連れて行く時間がなかなか取れません
体験活動というと、旅行や博物館見学など「特別なイベント」を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、学びのチャンスは日常の中にもたくさんあります。忙しい日々の中でも、ちょっとした工夫で体験を取り入れられます。
- 買い物:スーパーで野菜の産地を見る、お釣りの計算をする
- 料理:材料を量る、時間を計って火加減を調整する
- 散歩:道端の植物を観察する、交通標識の意味を話す
どのような場面でも「なぜ?」「どうして?」と子どもと一緒に考えることが学びの第一歩です。遠出ができなくても構いません。日常の中にある気づきを親子で楽しむ姿勢こそ、知的好奇心を育てる環境になります。
高学年で必ず伸びる!元大手塾講師が語る低学年でやるべきことは「土台作り」

ここまで、中学受験を視野に入れた低学年のうちに取り組むべきことについて、具体的な方法から注意点まで詳しく解説してきました。
低学年で本当に大切なのは、目先の成績や知識の先取りではなく、子どもの長期的な成長を支える土台を築くことです。
盤石な基礎学力、自律的な学習習慣、そして最後までやり抜くための体力。この3つの柱がしっかりと築かれてさえすれば、本格的な受験勉強が始まったときに、集中力と吸収力を発揮します。多くの家庭が焦って詰め込もうとする応用力やテクニックは、この土台があって初めて意味をなすのです。
周りの進捗が気になり、不安になることもあるかもしれません。しかし、他人と比較するのではなく、目の前の子ども自身の興味や成長のペースを尊重してあげてください。
日々の暮らしの中での何気ない対話、一緒に楽しむ読書や運動、週末のささやかな体験。そうした一つひとつの積み重ねが、子どもの「学ぶ力」の根を深く、そして強く育てていきます。
中学受験は長い道のりです。低学年のうちは、親子で学ぶことの楽しさを分かち合い、信頼関係を築く絶好の機会と捉え、焦らず、着実な一歩を進めていきましょう。その丁寧な歩みが、子どもが未来に大きく羽ばたくための力となるはずです。
執筆者プロフィール
塾選ジャーナル編集部です。『塾選ジャーナル』は、日本最大級の塾検索サイト『塾選(ジュクセン)』が提供する、教育・受験に関する総合メディアです。保護者が知っておきたい受験や進路情報をお届けします。
監修者プロフィール
早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wingsなどで指導歴25年以上。新卒入社の早稲田アカデミーでは、入社初年度に生徒授業満足度全講師中1位に輝く。駿台ではシンガポール校講師を経て、当時初の20代校長として香港校校長を務め、過去最高の合格実績を出す。河合塾Wingsでは講師、教室長、エリアマネージャーを務める。現在は、セミナー講演や書籍執筆、「にしむら先生 受験指導専門家」としてYouTube配信(チャンネル登録12万人超)などを中心に活動。著書は『中学受験のはじめ方』(KADOKAWA)など多数。 http://www.youtube.com/@nishimurasensei