【2025年最新】総合的な探究の時間とは?高校で始まった“未来の学び”をやさしく解説


編集部
塾選ジャーナル編集部
高校で新たに始まった「総合的な探究の時間」。
2022年度から必修科目として導入されたこの授業は、“考える力”や“主体的に学ぶ姿勢”を育てる学びとして注目されていますが、一体どのような授業なのでしょうか?
この記事では、「探究ってそもそも何?」「どういうことを学ぶの?」といった保護者の方の疑問を出発点に、目的や背景、授業の具体的な内容までをわかりやすく解説。高校教育の変化を理解するうえで、押さえておきたいポイントが満載です。
総合的な探究の時間とは?
「総合的な探究の時間」とは、高校で必修化された新しい教科で、生徒自身がテーマを設定し、調査・分析・発表を通して課題解決に挑む学習活動です。
この科目では、主に以下の4つのプロセスを通して探究が進みます。
1.課題の設定
2.情報の収集
3.整理・分析
4.まとめ・表現
探究テーマは、生徒の興味関心や地域社会、国際課題、SDGsなど多岐にわたります。
また、学校ごとに地域や企業との連携、ICTを活用した取り組みなど、独自のカリキュラム設計が可能とされています。
そもそも「探究学習」とは?
探究学習とは、あらかじめ答えが用意されていない課題に対し、生徒自身が問いを立て、調べ、考え、表現することで答えを導き出す学習方法です。
教科横断型の学びやグループワーク、発表活動などを通して、知識だけでなく思考力・表現力・協働力といった非認知能力も養われます。
以下の記事では、探究学習の意味やメリット、進め方や具体事例をわかりやすく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
総合的な探究の時間はいつからはじまった?
総合的な探究の時間は、2022年度に全国の高校で正式に導入されました。
その背景には、2018年に告示された新しい学習指導要領があります。この改訂により、従来の「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」へと名称が変更され、より深い学びへと進化しました。
なお、小学校・中学校では引き続き「総合的な学習の時間」が継続されており、高校のみ「探究」というキーワードが前面に押し出されています。
従来の「総合的な学習の時間」との違い
「総合的な学習の時間」と「総合的な探究の時間」の違いは、
自ら課題を発見し、探究していくことにどれだけ重点を置いているかにあります。
この違いは、それぞれの学習指導要領に示された「目標」を比較すると、より明確に浮かび上がります。
総合的な探究の時間 | 総合的な学習の時間 |
---|---|
探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 |
探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 ⑴ 探究的な学習の過程において、課題の解決に必要な知識及び技能を身に付け、課題に関わる概念を形成し、探究的な学習のよさを理解するようにする。 ⑵ 実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする。 ⑶ 探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに、互いのよさを生かしながら、積極的に社会に参画しようとする態度を養う。 ※2 |
※1 引用元:文部科学省 高等学校学習指導要領(平成30年告示) 第4章 総合的な探究の時間 第1 目標 p.475
※2 引用元:文部科学省 中学校学習指導要領(平成29年告示)第4章 総合的な学習の時間 第1 目標 p.159
それぞれの目標から浮かび上がる違いをまとめました。
比較項目 | 総合的な探究の時間 | 総合的な学習の時間 |
---|---|---|
目的 | 自己の在り方・生き方を考えながら、課題を発見・解決する力を育成 | 自己の生き方を考え、社会参画への意欲を育む |
課題の扱い | 実社会・実生活と自己の関わりから、自ら問いを見いだすことを重視 | 主に与えられたテーマや身近な問題から課題を設定 |
成果のイメージ | 探究活動を通じて新たな価値を創造し、よりよい社会実現を志向する | 課題解決型の学習体験を積み、自己理解を深める |
キャリア意識 | 自己の生き方と社会課題解決を結びつけ、キャリア形成につなげる | 間接的に自己の将来を考える機会 |
「総合的な学習の時間」は、探究的な活動を通じて自己の生き方を考えることを重視していました。一方で「総合的な探究の時間」は、その土台の上に「社会課題の発見・解決に主体的に関わる力」を育成することに重点を置いています。
つまり、自己理解にとどまらず、「自分と社会をつなぐ探究力」を磨くことが、総合的な探究の時間の最大の特徴です。そのため、キャリア教育の要素もより強く意識された設計になっているといえるでしょう。
総合的な探究の時間が注目される背景
総合的な探究の時間が注目されているのは、教育全体が教科横断的な学びや、生徒主体の課題解決型学習へと移行しているためです。
実際、2022年度の学習指導要領改訂では、「探究」が付く新科目が一挙に追加されました。
高校で追加された「探究」が付く新科目 |
---|
古典探究 |
地理探究 |
日本史探究 |
世界史探究 |
理数探究基礎 |
理数探究 |
総合的な探究の時間 |
計7科目に「探究」が登場し、これまでの知識重視・教師主導型の学習から、思考重視・生徒主体の学びへと大きなシフトが起きていることが分かります。
特に「総合的な探究の時間」はすべての高校生が履修する必修科目であり、地域・企業と連携した学びやICTを活用した交流活動など、従来の授業にはなかった多様な取り組みが展開されている点でも注目を集めています。
総合的な探究の時間 目的と重要性
現代の教育が探究学習を重視する背景には、AIやICTの急速な進化にともなう社会の変化があります。
これからの社会では、単に知識を持っているだけではなく、未知の課題に直面したときに、自ら考え、他者と協力しながら新しい価値を生み出せる力が求められています。
そのために設置されたのが「総合的な探究の時間」です。ここでは、以下の2つの視点からその意義を詳しくみていきましょう。
生徒の主体性と探究力を育む学び
総合的な探究の時間では、生徒が自らの興味や関心から課題を設定し、探究を通じて自分なりの解決策を導き出す力を育てます。
「課題設定→情報収集→分析→まとめ・表現」というプロセスを通じて、知識だけでなく、思考力・判断力・表現力といった「21世紀型スキル」が鍛えられます。
また、生徒自身にとって身近なテーマ(例:地域課題、身の回りの困りごと、社会課題など)を設定することにより、より主体的・実感を伴った学びが可能になります。
21世紀型スキルの習得
総合的な探究の時間では、文部科学省が提唱する「21世紀型スキル」の習得も重要な目的のひとつです。
21世紀の知識基盤社会で求められる能力(21世紀型スキル)としては、情報創造力(こと創り)のほかに、批判的思考力、問題解決力、コミュニケーション力、プロジェクト力、ICT活用力等がある。
引用元:文部科学省「学校教育の情報化に関する懇談会(第7回)資料1 これまでの主な意見 21世紀にふさわしい学校や学び、学校教育の情報化が果たす役割等について」
これらのスキルは「非認知能力」とも呼ばれ、大学入試改革やキャリア形成にも直結する力。社会からのニーズも年々高まっています。
こうしたスキルは、教室での一方的な講義ではなく、生徒が自ら考え行動する探究学習でこそ育まれやすいのです。
総合的な探究の時間は大学入試にも関係ある?
「総合的な探究の時間」での学びは、高校の中だけで完結するものではありません。むしろ、大学入試やその先のキャリア形成にも大きく関わってくる、重要な学びの土台となります。
ここでは、保護者の方が特に気になる以下の2つの視点から解説します。
- 総合型選抜・学校推薦型選抜との関係
- ポートフォリオの活用と評価
総合型選抜・学校推薦型選抜に直結する探究の成果
現在、多くの大学で実施されている「総合型選抜(旧AO入試)」や「学校推薦型選抜」では、学力試験だけでは測れない“主体性”や“思考力・表現力”が評価されます。
総合的な探究の時間で取り組んだ内容は、このような推薦系入試において、
- 志望理由書のテーマや根拠
- 面接での自己PR
- プレゼンテーション型入試での発表内容
など、出願書類や面接の軸として活かされることが、たくさんあります。
特に「地域課題に取り組んだ」「企業と連携して提案活動を行った」「新しい視点での解決策を見出した」といった経験は、受験生として大きなアピール材料になります。
ポートフォリオを活用して探究の成果を“見える化”
文部科学省では、総合的な探究の時間を通して得た学びや成長を「ポートフォリオ」という形で蓄積・記録することを推奨しています。
ポートフォリオとは、探究活動の記録や成果物(レポート・プレゼン資料・評価シートなど)をまとめた「学びの履歴書」のようなもの。これを活用することで、以下のメリットがあります。
- 自分の興味関心の変化や思考の深まりを可視化できる
- 総合型選抜でのプレゼン資料としても活用できる
- 大学進学後の学びやキャリア形成にもつながる
また、探究活動を振り返ることで、「自分は何に興味があって、将来どうありたいのか」というキャリア観を育てる機会にもなります。
内申点への影響は?
総合的な探究の時間の評価は、通知表においては数値(5段階など)ではなく記述形式で記録されます。そのため、内申点に直接反映されることは多くありませんが、活動の成果や取り組み姿勢は、総合型選抜など推薦入試での書類提出や、面接の際に重要な評価材料となるケースが増えています。
総合型選抜や学校推薦型選抜について、もっと詳しく知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。
総合的な探究の時間のテーマ・カリキュラム
では具体的にどのような学び方をするのか、テーマやカリキュラムを紹介します。
探究活動の進め方
探究活動は、この4つの過程で構成されています。
①【課題の設定】体験活動などを通して、課題を設定し課題意識をもつ
②【情報の収集】必要な情報を取り出したり収集したりする
③【整理・分析】収集した情報を、整理したり分析したりして思考する
④【発表・振り返り】気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し、表現する
引用元:文部科学省「今、求められる力を高める総合的な探究の時間の展開(高等学校編)(令和5年3月)」 第2章 充実した総合的な探究の時間を実現するための学習指導 p.23
そして、課題の設定から探究の過程を経るサイクルを繰り返すことで洗練された質の高い探究を目指します。
総合的な探究の時間でこのサイクルを回すには、年単位で一貫して取り組むことが重要です。
また、学校内でグループワークや調べ学習をするだけでなく、課題設定の段階で体験学習をしたり、探究の過程の「情報の収集」でフィールドワークをおこなったりと、学校の外で学ぶ機会も重要になります。
そうした学習を含めて質の高い総合的な探究の時間をつくり上げるには、年間指導計画で年間を見通して探究活動の計画を立てることが必要不可欠です。
年間指導計画の立て方
総合的な探究の時間の年間指導計画では、主に以下の要素を含めて計画を作成します。
- 単元名
- 各単元における主な学習活動
- 活動時期
- 予定時数
- 単元のねらい
- 各教科・科目等との関連
他学年や中学校、地域や外部講師との関連
総合的な探究の時間は卒業までに105〜210時間確保して取り組む必要があるため、これを踏まえて各学年で取り組む単元や授業時数を考えます。
単元の取り組み方としては主に4つあり、それぞれの学校の実態や探究活動でのねらいなどに適した取り組み方を選択するのが効果的です。
単元の取り組み方 | 概要 |
---|---|
分散型 | 単元ごと・学期ごとなどでいくつかの時期に分けて独立した単元に取り組む |
年間継続型 | 年間を通して同じ探究課題に取り組む |
並列型 | 同時期に複数の探究課題に取り組む |
複合型 | 学年単位、ホームルーム単位など、異なる学習形態や学習集団を組み合わせて取り組む |
こうした大枠を決めた上で、各単元内容や学期ごと・月ごとの取り組み内容を決め、年間の指導計画を作成します。
具体的なテーマと進め方
ここでは、総合的な探究の時間で取り組む具体的なテーマと進め方の事例を紹介します。
総合的な探究の時間では、地域課題や社会課題(SDGsなど)のうち生徒自身に関わりの深いものや地域・企業などと協働して探究できるテーマを設定することが推奨されています。
具体的なテーマとしては、このようなものが挙げられるでしょう。
- 地域活性化
- 地域づくり
- 地域の環境保全
- 地域防災
- 地域の伝統行事の継承
このようにテーマを設定したら、全体計画・年間指導計画を踏まえて、単元ごとの学習内容や授業時数、単元の順番を決めます。
例えば、上記のように、地域活性化がテーマなら、まず地域の実態を知り、どのような課題が潜在しているのかを発見することが第一のステップです。そこから課題設定をし、インタビューやアンケートなどを活用した情報の収集、集まった情報の整理・分析、まとめ・表現へと進めていきます。
単元内容や授業時数は、前年度の自校の探究事例や他校で実践されている探究事例を参考にできます。
総合的な探究の時間 高校での実践例
ここからは、高校で実施している総合的な探究の時間の実践事例をご紹介します。
静岡県立静岡西高等学校
静岡県立静岡西高等学校では、総合的な探究の時間を「未来プロジェクト」として3年間の探究学習に取り組みました。
第1学年は「『好き』を『学び』へ」というテーマで、興味関心のある課題を設定し、研究機関や専門家を訪問する探究ツアーを実施します。こうした探究活動を通して、興味関心から課題探究につなげるプロセスの把握や探究の過程の練習をおこないます。
第2学年では「『繋がり』を『学び』へ」というテーマで、地域をテーマにした探究に取り組みます。地域の経営者に話を聞いたり地域や企業について調べたりする活動を通して、地域という身近な社会で探究のスキルを活かすことを学びます。
第3学年では、「『学び』を『生き方・在り方』へ」というテーマで、自分の未来を考えて探究活動に取り組みます。これまでの探究学習の集大成として未来のことを考えた探究に取り組むのは、総合的な探究の時間の目標である「自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していく」ことに繋がります。
このような3年間の探究学習に取り組んだことで、生徒らは好きなことを探究する大切さや周りのさまざまな人との関わり方、将来の生き方・在り方などの気づきを得ていました。
(参照元:静岡県総合教育センター総合的な探究の時間(高等学校) 静岡西高等学校)
島根県立矢上高等学校
島根県立矢上高等学校では、2年生の総合的な探究の時間でフードロスについての探究活動をおこないました。
はじめは「寮の弁当の残飯が多い」という身近な課題意識からフードロスについて学習し、フードロスが加工段階と消費段階の2つの段階で発生する点に着目してそれぞれの課題を解決する方法について探究活動をおこないました。
1つ目の消費段階でのフードロスについては、寮の弁当の残飯を減らすことを目標として、残飯の量を調査し、表にして寮生に見えるようにすることで意識改革を促しました。また、寮生にアンケートを取り、おかずの変更やご飯の量の選択制という生徒の意見を調理員の方と相談して実現させることで、寮の弁当の残飯削減を目指しました。
2つ目の加工段階でのフードロスについては、地元の食品加工会社や農家と連携し、扱いにくい部位の肉や規格外の野菜を使ったレトルトカレーを商品化するという解決策に取り組みました。レトルトカレーは実際に生徒が実験や試食を繰り返して製作し、商品パッケージも生徒自らデザインしてフードロス問題をアピールすることを考えました。
(参照元:島根県教育庁 総合的な探究の時間ガイドブック(高等学校編))
どちらの探究活動でも、学校の調理員さんや地域の企業・農家さんといった地域の人々と協働しながら、フードロス問題の解決に取り組んだのが特徴的な実践例です。
総合的な探究の時間 教師と生徒の役割
先述したとおり、総合的な探究の時間は、従来の知識重視・教師主導の授業から大きく転換した生徒主体の授業です。これに伴い、教師と生徒の役割も変化しています。
まず、総合的な探究の時間において、教師は、生徒の興味関心を引き出したり主体的に学びに向かえるようにフォローしたりすることが求められます。
これは総合的な探究の時間での教師が、「指導者」として生徒を先頭で引っ張る存在ではなく、生徒に寄り添って一緒に進んでいく「伴走者」であることを意味します。
伴走者である教師は、全体指示を通して授業を進めながら、一人ひとりの学習状況に適した支援をおこないます。
従来の一斉授業とは異なり、状況に応じて個に適した支援をおこなうことが求められていると言えるでしょう。
教師のファシリテーションの重要性
総合的な探究の時間を質の高い学習とするためには、生徒主体の学びがスムーズに進めることができる環境を教師が整える必要があります。そのため、生徒主体の学習活動といっても、教師のファシリテーションが重要です。
例えば、探究活動ではグループワークが多いため、グループワークで何の議題を取り上げ、どういった結論を出すのかを教師側が的確に指示する必要があります。
また、話し合いの様子を観察して、議論が煮詰まっているようであれば適切な方向に進むようにアドバイスすることも重要な役割です。
探究活動は生徒の主体的な学びが重要な学習活動ですが、教師が適切にフォローの役割を果たすことで、より質の高い有意義な学びにつなげることができます。
生徒の主体性と協働性の促進
総合的な探究の時間では、生徒は主体的かつ他者と協働しながら学ぶことが求められます。
これまでの学校教育では板書をノートに写したり指示された問題を解いたり教師の話を聞いたりする学習が主体でしたが、探究活動では調べ学習やフィールドワーク、体験学習など、多様な学習方法に取り組むのが特徴です。
さらに、設定した課題解決に必要な学習方法を生徒自身が考えて決めることも多く、まさに生徒主体の学びと言えます。
また、他者との協働を積極的に取り入れることも推奨されており、グループワークや異学年・他校の生徒との学び、地域や企業にいる大人との学びが取り入れられることも多いです。
こうした学習を通して、生徒の主体性と協働性が促進され、自ら学習していこうという態度や他者と協力して物事を進められるスキルが育成されます。
総合的な探究の時間 評価方法と成果測定
総合的な探究の時間は、その学び方の特性や扱う内容の幅広さゆえに、各学校で適切な評価方法と評価の観点・基準を設定するよう求められています。
テストの点数重視の従来の評価方法とは異なり、多様な面から生徒の資質・能力を評価できる評価方法を採用しているのが特徴です。
文部科学省の資料では、総合的な探究の時間の評価方法の例として以下が挙げられています。
・プレゼンテーションやポスター発表、総合芸術などの表現による評価
・討論や質疑の様子などの言語活動の記録による評価
・学習や活動の状況などの観察記録による評価
・論文・報告書、レポート、ノート、作品などの制作物、それらを計画的に集積したポートフォリオ(小学校や中学校からの蓄積があると望ましい)による評価
・課題設定や課題解決能力をみるようなパフォーマンス課題を解決することによる評価
・評価カードや学習記録などによる生徒の自己評価や相互評価
・保護者や地域の人々等による第三者評価
引用元:文部科学省「今、求められる力を高める総合的な探究の時間の展開(高等学校編)(令和5年3月)」 第5章 総合的な探究の時間の評価 p.133
総合的な探究の時間の評価は、まとめ・表現だけでなく、討論や質疑の様子、学習の観察記録といった探究の過程も対象です。
さまざまな学習記録・成果物が評価対象となるため、評価の仕方に工夫を凝らす必要があります。
評価基準の設定
総合的な探究の時間では、各学校が育てたい生徒像に応じた評価基準を策定することが求められます。
明確な全国共通の基準はありませんが、文部科学省の方針に基づき、一般的には次の3つの観点から評価を行うケースが多いです。
- 知識・技能
- 思考力・判断力・表現力
- 主体的に学習に取り組む態度
数値評価ではなく、記述による評価が基本で、生徒の成長や学習プロセスの変化を丁寧に記録していきます。
ルーブリック評価の活用
総合的な探究の時間の評価では、ルーブリック(※)を活用することも多いです。特にまとめ・表現でのプレゼンテーションやポスター発表などを評価する際によく用いられます。
(※)ルーブリックとは・・評価の基準をあらかじめ段階的に示した表のこと。例えば、「とてもよい」「ふつう」「もう少し」など、でき映えをレベル別に評価できる。どこができていて、どこを伸ばすべきかがはっきりわかる
▼ルーブリックの例
評価の観点 | 評価項目 | 評価方法 | 評価点 | ||
---|---|---|---|---|---|
よくできる (3点) |
できる (2点) |
もう少し (1点) |
|||
知識・技術 | 学習内容の活用 | 授業全般 | ~を十分理解し、様々な場面で活用できた。 | ~を概ね理解でき、質問に的確に回答できた。 | ~をほとんど理解できず、活用の場面がなかった。 |
学習内容の整理 | レポート | ~を整理して的確にまとめ、学習定着のために行動できた。 | ~を整理してレポートにまとめることができた。 | ~を整理することができずレポートにできなかった。 | |
思考力・判断力・表現力 | 自己表現 | 授業全般 | 根拠や事例を引用し、自身の考えに説得力を持たすことができた。 | 自身の考えをレポートにすることができた。 | 自身の考えをレポートにまとめられなかった。 |
プレゼンテーション | 発表 | 他者に分かるように論理立てて簡潔に伝えることができた。 | 他者に分かるように言葉選びなどを工夫できた。 | 原稿を読むだけの発表であり、もう少し準備が必要だった。 | |
主体的に学習に取り組む態度 | 責任感 | 授業全般 | 率先して取り組み、授業進行にも前向きに取り組めた。 | 授業進行のマナーを守ることができた。 | 授業中のマナーを守ることができなかった。 |
積極性 | 実習 | 目的意識を持ち、自らの学びとするために積極的に取り組んだ。 | 自身がすべきことを進度に遅れないよう取り組んだ。 | 目的意識が足りず、積極的に参加できなかった。 |
※新学習指導要領の学習評価を基に筆者が作成した例です。
上記のようにルーブリックで評価基準をはっきり示すことのメリットは、教師と生徒で評価基準を共有できることです。
生徒はルーブリックに基づいてプレゼンテーション等の改善を図れますし、教師も的確なアドバイスがしやすくなります。
また、発表だけでなく、自己評価や相互評価でもルーブリックを活用できます。
総合的な探究の時間 課題と今後の展望
探究的な学びの重要性が高まる中、学校の教育現場ではさまざまな課題にも直面しています。
ここでは、総合的な探究の時間における課題について詳しく見ていきましょう。
探究学習の定着を阻む課題とは?
総合的な探究の時間における課題としては、以下のようなものが挙げられています。
- 教員の負担が大きい(指導計画・授業設計・評価など)
- 指導体制が整っていない
- 探究の質をどう担保するかが難しい
- 企業や地域との連携が十分でない
特に指導計画と評価の負担は大きく、探究学習に不慣れな教員にとっては対応が難しいケースもあります。
課題の解決策
こうした課題を解決する動きとして、以下のような取り組みが広がっています。
探究コーディネーターの配置
- 企業・地域と連携した授業設計支援
- 実践事例や教材の共有サイトの活用
例えば、経済産業省「未来の教室」では、校務支援や進路指導支援も含めた外部人材派遣を行う自治体もあります。
また、指導案や成果物、ルーブリックなどを自由に参照・活用できる「実践事例共有サイト」も増えており、教育現場での導入が加速しています。
学校外でも広がる探究学習の機会
探究学習は学校の枠を超え、民間教育にも広がっています。
たとえば、以下のような民間塾では探究学習を中心に据えたカリキュラムを展開しています。
こうした塾では、学校では補いきれないテーマの深堀りや、より柔軟な探究体験を提供しています。
塾選ジャーナルでは探究学習塾を取材・レポートしています。実際にどのようなことに取り組めるのか、どんな子どもが通っているかなど最前線の現場を徹底取材。探究学習を取り入れた新たな学びのカタチを知りたい方はぜひ併せてご覧ください。
参考記事:探究学習塾最前線レポート
まとめ:総合的な探究の時間で未来の可能性を広げよう
総合的な探究の時間は、知識の習得にとどまらず、自ら問いを立てて社会と関わる力を養う重要な学び。2022年度から本格スタートしたばかりのこの科目は、まだ発展途上ではあるものの、多くの学校で地域や企業と連携した先進的な取り組みが進んでいます。
保護者の方にとっても、探究学習は子どもの進路や将来の可能性を広げる手段のひとつです。家庭でも探究学習の内容に関心を持ち、たとえば、子どもが興味を持ったテーマに一緒に調べ物をしてみたり、ニュース記事を共有したりするだけでも、探究の芽を育むサポートになります。
今後さらに探究学習の定着が進み、学校教育の新たなスタンダードとして確立されていくことが期待されます。
執筆者プロフィール

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