【2026年度】慶應小論文の対策!学部ごとの傾向を小論文指導の専門家が解説
「慶應の小論文ってどんな試験?」「何から始めればいいの?」「合格ラインは?」そう感じている受験生も多いのではないでしょうか。
慶應義塾大学の小論文は学部ごとに出題傾向が大きく異なり、一般選抜・総合型選抜どちらでも合否を左右する重要科目です。
この記事では、最新の入試情報と学部別の傾向・対策を、総合型選抜専門塾「洋々」小論文責任者・浅賀俊亮先生の監修でわかりやすく解説します。
編集部
塾選ジャーナル編集部
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監修者
浅賀俊亮
「総合型選抜の個別指導塾 洋々」小論文責任者。有名予備校で現代文、小論文の講師を務め、洋々の創立メンバーとなる。テキストの執筆、模試の作成、映像授業への出講、多数。小論文は、「フレームワーク」と「フォーマット」を組み合わせた独自の指導法により、慶應や国公立後期への短期合格者を輩出する。北海道大学法学部中退。共著書に『採点者の心をつかむ 合格する総合型選抜・学校推薦型選抜』(2023年、洋々 著/かんき出版)。
慶應入試、小論文の位置づけと最新情報は?

慶應義塾大学の入試において、小論文はどのような位置づけなのでしょうか。最新情報と一緒に解説します。
慶應のアドミッション・ポリシーと小論文
慶應義塾大学は古くから、国語に代えて小論文を入試科目として採用してきました。
現代文を中心とする国語は、課題文の正確な読解を第一義とし、基本的に個々の受験生の解釈や意見は要求されません。
一方、小論文においては、与えられた問いに対して自分の意見を述べ、その根拠を論理的・説得的に示すことが必要となります。
英語や社会のように知識そのものを問う試験ではなく、知識をどう使って問題と向き合うか、そのプロセスを形にできるかを評価する試験です。
その背景には、慶應義塾大学の建学の精神、特に、
- 【独立自尊】:自他の尊厳を守り、何事も自分の判断・責任のもとに行う
- 【実学】:実証的に真理を解明し問題を解決していく科学的な姿勢
- 【気品の泉源】:人格を備えた社会の先導者となる
- 【自我作古】:前人未踏の新しい分野に挑戦し、たとえ困難や試練が待ち受けていても、それに耐えて開拓に当たる
があると考えられます。
出典:福澤諭吉と慶應義塾の精神
小論文指導の専門家・浅賀先生「慶應義塾大学の小論文の特徴」
慶應義塾大学は一般選抜において、小論文を受験生の多様な知的能力を測り、大学で学ぶための必要な総合力を見極める科目として位置付けていると考えられます。
そして、刻々と変化する環境の中でより各学部の趣旨に叶う学生を採用できるよう、小論文入試の運用に大小のアップデートを施しています(経済学部の小論文の休止、法学部の出題形式の変化もこの文脈で理解することが出来ます)。
各学部の小論文の出題傾向については記事の後半でお話ししますが、総じて、
- 「前人未踏の新しい分野」、まだ誰も答えを知らない社会的な課題や論点に対しても、「自分の判断・責任」で明快に意見を述べる
- 意見を個人的な感慨に留めることなく、第三者が理解し納得できるように「実証的」「科学的な姿勢」で検証し、客観的・論理的な根拠を示す
- 冷たい論理に堕することなく、「人格を備えた社会の先導者」としての視点を維持する
といったスタンスが重要となります。
経済学部では2027年度入試から小論文休止!最近の変更点は?
経済学部では小論文が休止され、配点や試験時間も変更に
慶應義塾大学経済学部では、2027年度入試からは小論文が休止され、試験制度が大きく変わります。その結果、以下のように配点や試験時間が変更する予定です。

- A方式:数学の配点が150点 → 200点に変更
- B方式:地理歴史の配点が150点 → 200点に変更
- 試験時間:80分 → 100分へ延長
- 入試形式:小論文を除いた「2教科入試」に変更
この変更により、経済学部入試は小論文対策ではなく、主要科目での高得点が合否を左右する形になります。
なお、経済学部は過去にも一度「小論文廃止→復活」という経緯があり、今回も「廃止」ではなく「休止」という表現が使われています。
そのため、将来的に小論文が再導入される可能性も残されている点には注意が必要です。
法学部では名称変更と形式変更!2025年度からの新しい小論文
一方、法学部では2025年度入試から小論文の形式が変更されています。
- 名称変更:「論述力」 → 「小論文」
- 試験時間:90分 → 60分に短縮
- 出題形式:長文読解+要約が廃止され、意見記述中心の形式に変更
従来の形式では、長文の理解と要約に多くの時間を取られ、その後の意見記述に十分な時間を割けないケースが目立っていました。
新形式では、最初から自分の意見を論理的に書くことに集中できるため、時間配分の面では受験生にとって取り組みやすい試験になったといえるでしょう。
慶應ならではの小論文の特徴

慶應義塾大学の小論文には、他大学にはあまり見られない特徴があります。特に重要なのは以下の2点です。
読解力と論理展開力が厳しく問われる
小論文は、単なる知識暗記や文章力のテストではありません。与えられた資料や課題文を的確に読み取り、論理的に筋道を立てて意見を展開できるかが重視されます。
そのため、解答の内容はもちろん、論理の一貫性や説得力も合否に直結します。
足切り・二段階選抜が存在する
経済学部や法学部では、英語や社会などの基礎学力試験で一定の点数に達しなければ、小論文の答案が採点されません。
つまり、まずは基礎学力(特に英語)で足切りを突破することが必須条件で、その上で小論文で差をつける仕組みです。
なお、2027年度入試からは経済学部で小論文が休止となるため、この足切り方式は廃止されます。ただし、法学部を受験する人は引き続き注意が必要です。
慶應小論文の全体的な傾向は?

ここでは、慶應小論文の全体的な傾向について解説します。慶應の小論文は学部によって出題形式が大きく異なりますが、ざっくりと
- 課題型
- 文章読解型
- 表・データ分析型
- その他
に分類できます。以下、それぞれの対策のポイントを整理してみましょう。
課題型小論文(法学部、法学部FIT入試B方式の総合考査Ⅱ、文学部自主応募の総合考査Ⅱ)
与えられたテーマを踏まえて、自分で考え論述する形式です。課題文の読解や、表・データの分析などは要求されませんが、その代わりに課題文や表・データをヒントにすることができないため、より高度な思考力、発想力、知識などが求められます。
既存の知識をそのまま使えることは少なく、多くの場合は知識を足掛かりにどのように思考を深めるか、学部趣旨に即してどのように発想するかが問われます。
文章読解型小論文(文学部、総合政策学部、環境情報学部、看護学部、法学部FIT入試A方式、慶應文学部自主応募総合考査Ⅰ)
文章読解型では、課題文を読み解き、それをもとに要約・意見を述べます。慶應の文学部やSFC、法学部FIT入試A方式などで採用されています。
主題・主旨・根拠を整理して正確に要約する力が最初の関門です。論述では単なる賛否ではなく、設問条件に即して自分の立場を明確にすることが大切です。慶應では穏当なテーマが多く、筆者の意見に近い立場を取りつつ、根拠や具体例で差をつける答案が高く評価されます。
表・データ型小論文(総合政策学部、環境情報学部、法学部FIT入試B方式
表やグラフなどの資料を読み取り、分析結果をもとに論述する形式です。総合政策学部や環境情報学部、FIT入試B方式などで出題されます。まず各資料から事実(傾向や変化)を抽出し、背景や原因を考察します。
複数資料がある場合は、相互の関係を整理しながら因果関係や対立構造を明確にすることがポイントです。単なるデータの説明にとどまらず、そこから導かれる論点を論理的に展開できると高得点が狙えます。
その他(商学部)
商学部の「論文テスト」は小論文というより、現代文と数学を融合した独自形式です。課題文や資料を読み取りながら、数値計算や記述式の分析を行う問題が中心で、明確な正解が存在する場合が多いのが特徴です。
自分の意見を述べるというよりも、データを正確に読み取り、論理的に説明する力が問われます。文系科目と理系的思考の両方をバランス良く使う必要があるため、国立上位校志望者にも対応しやすい内容です。
慶應の小論文で求められる3つの力
慶應の小論文で合否を分ける基本軸は、大きく分けて3つあります。
まず重視されるのが読解力です。与えられた課題文や資料を正しく理解し、要点を的確に把握できなければ論じることはできません。字数が限られた中で「本当に必要な情報はどれか」を見抜く力が不可欠です。
次に必要なのが論理展開力です。自分の主張をただ書くだけでは評価されません。理由や根拠を整理し、相手が納得できる形で筋道立てて説明する力が求められます。序論・本論・結論という基本的な構成を押さえつつ、論理に飛躍がないかをチェックできることが重要です。
そして最後が独自の視点です。慶應の小論文は「自分で考え、挑戦する力」を測る試験でもあります。他の受験生と似たような意見を並べるだけでは差がつきません。課題文や資料を踏まえながら、自分なりの切り口や具体例を提示できると、答案にオリジナリティと説得力が生まれます。
慶應小論文の出題傾向と対策【学部別】

ここでは、慶應の小論文の出題傾向と対策について学部別で解説します。
法学部の小論文対策は、社会を論理で読み解く力を鍛えよう
慶應法学部の小論文は、社会の根幹に関わるテーマ(自由・民主主義・法と正義など)について、「自分の意見を社会的ルールとして成立させられるか」を問う試験です。
単なる賛否ではなく、多角的に考える力と筋道の通った主張が鍵になります。
【出題の傾向】
形式:課題型(800字・60分)
テーマ例:表現の自由と誹謗中傷の線引き/民主主義と多数決の限界/公共の福祉と個人の権利のバランス
特徴:専門知識よりも「一般的教養+論理的整合性」を評価。論点の整理力・多面的な思考が重視され、「正解」はなくても一貫性が求められます。
〈実際の問題例〉
「SNS上の誹謗中傷に対して、どのような法的規制が望ましいか。表現の自由と人権保護の観点からあなたの考えを述べなさい」(2023年度)
法学部では結論よりも、"なぜそう考えるか"の道筋を評価しています。
対策としては、まず「新聞社説を150字で要約し、賛否を1行で書く練習」をしてみましょう。
さらに、「自由と規制」「個人と社会」など対立構造をノートに整理しておくと、論点をすぐにつかめるようになります。
〈法学部の過去問〉
例えば、法学部の過去10年の出題テーマを振り返ってみると、
2016年 世界文明 ※出典は1978年に刊行
2017年 立憲主義 ※出典は2004年に刊行
2018年 現代社会のリスクと個人の対応 ※出典は2013年に刊行
2019年 国際人権問題への日本の対応 ※出典は1998年に刊行
2020年 アジアの近代化 ※出典は1993年に刊行
2021年 個人と社会の緊張と対立 ※出典は1947年に刊行
2022年 戦争と平和 ※出典は1971年に刊行
2023年 現代政治の弊害と情報技術 ※出典は2013年に刊行
2024年 18世紀の視座によるフランス革命の評価 ※出典は1973年に刊行
2025年 ローマ法大全を踏まえた法と正義の考察
といった形になります。
国際秩序のゆらぎ、紛争の勃発、市民のリテラシーの欠如、ポピュリズムの台頭等、近年の社会状況が何らかの形で出題の契機となっていることは想像に難くないのですが、清々しいまでにそのまま聞いてくれることはありません(笑)
慶應の小論文を貫くこの姿勢は、個人的には、単純な知識の有無や多寡で有利不利が分かれることを嫌ってのことかと推察しています。
こうした出題に対応するためには、単純な知識の詰込みではなく、自分なりに知識を体系化・運用すること、日々の時事ネタの収集ではなく、それらの背後にある本質的な問題や普遍的な構造を考察することが重要となります。
なお、余談ではありますが、法学部のFIT入試においてはA方式、B方式共に時事問題を踏まえた出題が散見されます。
これは、過去の活動や探究を踏まえて大学における研究テーマを設定し、その延長上に在るべき将来像を位置づけ、そこに至るための志望校の学問領域の必要性をアピールする、いわば、よりアクティブに自分を取り巻く現実と渡り合う姿勢が求められる総合型選抜の趣旨に照らしたものだと解されますので、一般選抜とは切り離して考えておいた方がよさそうです。
文学部の小論文対策は、読解と思考をつなぐ力を磨こう
慶應文学部の小論文は、哲学・史学・文学・自然科学など幅広い分野から出題されます。設問1が要約(300〜400字)、設問2が意見論述(300〜400字)、制限時間は90分。限られた字数で要点を整理し、簡潔に論理を展開する力が求められます。設問1で発見した論点をもとに設問2で意見を述べる構成が多く、文章理解力と論理的表現力の両立が鍵です。
【出題の傾向】
形式:文章読解型(要約+意見論述)
テーマ例:言語と文化の関係/科学と倫理/記憶とアイデンティティ/時間と人間の意識
特徴:学問分野を超えた抽象的テーマが多く、「筆者の主張を正確に理解し、自分の考えで発展させる」力を評価。
〈実際の問題例〉
「正しさ」について、この文章をふまえて、あなたの考えを述べなさい」(2022年度)
文学部の小論文は「読んで終わり」ではなく、「読んで考える」試験です。筆者の主張を自分の言葉で再構成できる人が強いです。
対策としては、評論文や新書を400字で要約する練習を重ねましょう。要約で「主張・理由・結論」を整理し、その論点に対して自分の意見を3文で書く練習をすると、論理の型が自然に身につきます。
商学部の小論文対策は、数字の意味を言葉で説明する力を鍛えよう。
慶應商学部の入試では、通常の小論文の代わりに「論文テスト」と呼ばれる独自形式の試験が行われます。現代文の読解と数学的処理を組み合わせたスタイルで、課題文のほかに表やグラフなどが示され、数値を読み取りながら論述を展開します。与えられた資料を正確に理解し、数字の背景にある意味を論理的に説明する力が求められます。
【出題の傾向】
形式:論文テスト(読解+数値分析)
テーマ例:市場データと消費傾向の分析/少子化と経済成長率の関係/企業行動と利益構造
特徴:文章力だけでなく、データを根拠として考察する力を評価。正確な読み取り・数量的説明・論理展開の3点が鍵です。
〈実際の問題例〉
「日本の労働生産性と平均賃金の推移を示した表をもとに、格差拡大の背景とその要因を説明せよ」(2022年度)
商学部の論文テストは「数字を読めるか」ではなく、"数字の意味を言葉で説明できるか"がポイントです。
対策としては、日経新聞などの経済記事に掲載されるグラフを見て、1分以内で「何がわかるか」を文章でまとめる練習をしてみましょう。データの変化だけでなく、その原因や社会的背景まで言葉で説明できるようになることが合格への近道です。
総合政策学部の小論文対策は、課題を発見し構想する力を磨こう
慶應総合政策学部の小論文は、冒頭の説明文・資料・設問が一体となっており、全体を通して一つの課題を考察する形式です。設問ごとに独立しているように見えても相互に関連しているため、部分的に答えると論旨がずれてしまうことがあります。
現代社会を題材にした統計やデータが中心で、解決策を提示するよりも、課題を発見し、方向性を示す力が問われます。
【出題の傾向】
形式:資料・統計分析型(複数資料+設問構成)
テーマ例:人口減少と都市政策/テクノロジーと雇用の変化/環境問題とエネルギー政策/情報社会と格差
特徴:複数の資料を関連づけ、因果関係や背景を分析する力を重視。具体的な提案よりも、「なぜその課題が生じているのか」を論理的に説明できるかが評価されます。
〈実際の問題例〉
「日本の高齢化率と労働力人口の推移に関する資料をもとに、今後の社会的課題を分析し、その方向性を述べなさい」(2022年度)
総合政策の小論文は「アイデアを出す試験」ではなく、「課題を発見する試験」です。資料から本質を読み取る力が合否を分けます。
対策としては、ニュース記事や白書のグラフを見て「何が問題か」を一文で要約する練習をしましょう。さらに、「誰に」「どのような影響があるか」を整理し、課題の構造を図式化して考える習慣をつけると、複雑なテーマにも対応できるようになります。
環境情報学部の小論文対策は、発想力と論理の両立を目指そう
慶應環境情報学部の小論文は、一般的な小論文とは大きく異なり、創作・表題付け・数式を使った表現など、非常にユニークな形式で出題されます。年度によっては資料がほとんど提示されない場合もあり、出題形式が毎年大きく変わるのが特徴です。重視されるのは知識量ではなく、与えられた情報から発想を広げ、論理的に新しいアイデアを形にできる力です。
【出題の傾向】
形式:自由記述・創造型(創作・数式・表題付けなど)
テーマ例:AIと人間の共存/自然とテクノロジーの関係/未来社会の倫理/情報環境と創造性
特徴:科学技術や社会問題を題材に、「これからの社会をどう設計するか」を考えさせる。発想の独創性と筋道の通った論理展開が評価の軸となります。
〈実際の問題例〉
「新しいテクノロジーによって人間らしさが変わるとしたら、それはどのような変化か。あなたの考えを自由に表現しなさい」(2022年度)
環境情報学部では、アイデアを思いつく力よりも、発想を論理的に伝える力が問われます。自由だからこそ、筋道のある構成が重要です。
対策としては、日常のニュースや科学記事から「未来の課題」を一つ選び、200字で「自分ならこう解決する」という仮説を書く練習をしてみましょう。自由な発想をベースに、根拠と一貫性を加えるトレーニングが効果的です。
看護医療学部の小論文対策は、共感と論理のバランスを意識しよう
慶應看護医療学部の小論文は、医療技術そのものではなく、「医療の周辺」、人や社会との関わりに焦点を当てた問題が中心です。障害者や高齢者、災害時の対応などを題材に、他者への理解や共感を持ちながら、自分の考えを論理的に表現できるかが問われます。設問は毎年2題で、100〜600字程度。特に「著者独自の用語の意味を説明する」問題は頻出です。
【出題の傾向】
形式:短文記述+意見論述(2題構成)
テーマ例:高齢者介護と自立支援/災害時の医療体制/多様性と共生社会/命の尊厳と看護倫理
特徴:要約・推論・意見論述の切り替えが重要。感情的ではなく、根拠に基づいた共感的思考が評価されます。
〈実際の問題例〉
「高齢者ケアにおいて『自立支援』とは何を意味するのか。課題文を踏まえて説明しなさい」(2022年度)
看護医療学部では、優しい文章よりも、相手を理解しようとする論理的な文章が評価されます。
対策としては、医療・福祉に関する記事を読み、「どんな課題があり、誰が困っているか」を一文でまとめる練習をしましょう。そこに自分の考えを50〜100字で添える習慣をつけると、思考と表現の両方を鍛えられます。
総合型選抜の小論文対策は、「理解力+発想力+論理力」を総合的に磨こう
慶應では法学部と文学部の総合型選抜でも小論文が課されます。一般選抜よりも思考過程や発想力が重視されるのが特徴です。講義を聴いてまとめる形式や、抽象的テーマを自分の言葉で掘り下げる形式など、学部ごとに出題傾向が異なります。
法学部 FIT入試A方式(講義理解型)
大学1年生向けの講義(法律・政治)を約50分聴き、その内容をもとに要約+論述を行う形式です。課題文が手元に残らないため、講義中のメモ力と論点整理力が合否を左右します。
【実際の形式例】講義を要約(400〜600字)+自分の考えを論述(600〜800字)
「聞きながら考える力」が問われます。すべてを書き取るのではなく、主張・根拠・事例の3点をメモしましょう。
法学部 FIT入試B方式(資料分析型+課題型)
考査Ⅰは資料分析型で、表やデータから事実を整理し背景を考察します。考査Ⅱは課題型で、「信頼される人を探す方法」「神々のディベートに参加する」など独創的な設問が特徴です。どちらも論理的思考と人権意識が評価の中心です。
奇抜な答えよりも、人としてどう考えるかの一貫性が大切です。
文学部 自主応募制推薦(考査Ⅰ・Ⅱ)
考査Ⅰは文章読解型+英作文(計120分)、考査Ⅱは400字の課題型小論文(60分)です。与えられたキーワード(例:家族、芸術、愛など)を多角的に掘り下げ、自分なりに再定義して論じる力が問われます。
【実際の問題例】「自由と多様性についてのあるべき姿について、あなたの考えを述べなさい」(2022年度)
文学部では、常識を疑う姿勢が評価されます。キーワードをそのまま説明せず、自分の言葉で問い直してみましょう。
対策としては、過去問を使いながら「要約→論理構成→発想展開」を一連で練習することが効果的です。講義型ではノート力、資料型では分析力、課題型では発想力と、形式ごとに必要な力を意識して鍛えることが合格への近道です。
効率的な勉強法と学習スケジュール

慶應義塾大学の小論文を突破するには、場当たり的な勉強では不十分です。基礎力の養成から過去問演習まで、時期ごとにやるべきことを計画的に進めることが合格への近道となります。ここでは学年別に効果的な勉強ステップを確認していきましょう。
高1~高2の基礎固め(読解・要約力の養成)
高校1年から2年の時期は、小論文対策の土台をつくる段階です。まずは学校の現代文の授業をしっかりと受け、文章を正しく読み取り、要点を整理する力を養っていきましょう。特に評論文を丁寧に読み、著者の主張やキーワードを押さえる練習は小論文にも直結します。
また、新聞や新書を読みながら「段落ごとに要約する」トレーニングを取り入れるのも効果的です。最初から完璧な要約を目指す必要はなく、大意をつかんで自分の言葉でまとめる習慣をつけることが大切です。この時期に読解力と要約力をしっかりと固めておくと、高3での本格的な小論文演習がスムーズになります。
高2の終わりから高3の初めを目途に、一度直近の過去問に取り組むのも一つの手です。
もちろん、このタイミングでいい答案を作るのは困難ですし、過去問の数をこなす必要もないのですが、「ラスボス」の姿を知ることで今後の学習の指針となります。副次的な効果として、「書けなさ」を体感しつつも入試までまだ期間があることで、学習のモチベーションが上がることもあります。
高3春~夏の時期に取り組むこと(背景知識・語彙強化)
高3の春から夏は、小論文対策を本格化させる大切な時期です。まず重視したいのは背景知識の蓄積で、政治・経済・環境・テクノロジーなど幅広いテーマに触れ、頻出の時事問題に慣れておきましょう。また、評論文や新聞を通じて語彙力を高め、抽象的な概念を自分の言葉で説明する練習も欠かせません。
さらにこの時期からは、200〜300字程度の短い論述練習を取り入れると効果的です。要約や意見記述を繰り返すことで構成力が身につき、秋以降の過去問演習につなげやすくなります。
焦点は「正確に読み取り、自分の言葉で簡潔に表現する」ことです。基礎的な文章力を鍛えておけば、入試直前に急に伸びるのではなく、安定した実力として発揮できるようになります。
秋以降の実践対策(過去問演習・添削)
秋からは入試本番を見据えた実践練習に入ります。まずは過去問を解き、学部ごとの出題形式や時間配分に慣れることが大切です。本番と同じ制限時間で答案を書くことで、自分の弱点や改善点が見えてきます。
また、答案は必ず第三者に見てもらいましょう。自分では気づけない論理の飛躍や曖昧な表現を指摘してもらえるのは大きなメリットです。添削を繰り返すことで、論理展開の精度や説得力が高まり、得点に直結します。仕上げの段階では、演習量を重ねるだけでなく「質の高いフィードバック」を受けることが合格への近道です。
演習量と時間配分の目安
小論文対策では「どれだけ書いたか」が実力に直結します。高3の秋以降は、最低でも週1~2題は答案を書くペースを意識しましょう。学部によって字数や形式が異なるため、慶應の過去問を中心に、類似問題も取り入れて演習量を確保すると効果的です。
時間配分の練習も欠かせません。本番では60〜120分の制限があり、読解・構想・執筆にどの程度割くかを事前にシミュレーションする必要があります。
例えば、読解と要点整理に3割、構想に2割、執筆に4割、見直しに1割といった配分を基準にすると安定します。演習を重ねる中で自分に合ったリズムを見つけ、試験当日に迷わず答案作成に集中できる状態を整えておきましょう。
小論文指導の専門家が解説する慶應小論文の答案作成のコツ

序論・本論・結論の型と応用
小論文は「自分の意見を根拠とともに筋道立てて伝える」ことが目的です。そのため、文章構成には序論・本論・結論の型を使うと効果的です。試験本番で限られた時間の中、安定して合格水準の答案を仕上げる上で有効な方法といえます。
基本構成は、序論で主張(+根拠の予告)、本論で根拠と展開、結論でまとめという流れです。例えば「犬が好き」というテーマなら、序論で意見を提示し、本論で理由を2点挙げ、結論で再確認するという形になります。
学部ごとに重点は異なり、文学部のように字数が限られる場合は根拠の充実を優先し、法学部のように字数に余裕がある場合は反対意見への配慮を加えるとより完成度が高まります。
採点者に伝わる論理展開の仕方
小論文では「論理の筋道を明確に示すこと」が何より大切です。構成にはさまざまな“型”がありますが、すべてが万能ではありません。例えば、譲歩批判型(「たしかに〜しかし〜」)は、反対意見を想定する場合には効果的ですが、使い方を誤ると説得力を損なうこともあります。
基本的な構成フォーマットとしては、①意見の提示 → ②抽象的根拠(理由+説明)→ ③具体例の提示、です。400字程度の小論文なら、この3段構成で十分な主張を展開できます。字数に余裕がある場合は、④再反論・修正、⑤改善策、⑥結論を加えてより完成度の高い論文に仕上げることが可能です。
特に「抽象的根拠」をどれだけ的確に書けるかが評価の分かれ目です。理由を簡潔に示し、その後の説明で具体化することで、読者が納得できる流れを作れます。この型を身につければ、どの学部でも安定して高評価を得やすくなります。
よくある減点を回避する方法
小論文では採点基準が明確に定められており、答案の完成度よりも「減点を避ける意識」が合否を左右します。まず大前提として、設問に正確に答えることが最重要です。設問文の言葉を引用しながら明確に意見を述べましょう。また、複数の条件が提示されている場合は、それぞれに対応した記述を入れることが必要です。
字数制限の厳守も重要です。制限字数の8割以上を埋め、かつ超過しない範囲に収めるのが基本です。特に「○○字程度」とある場合は、±1割(例:400字なら360〜440字)を目安にしましょう。
これらの基本を守っても加点はされませんが、逸脱すると大きく減点されます。採点者の立場を意識し、「読みやすく、設問に忠実で、形式を整えた答案」を書くことが、慶應義塾大学入試における小論文での安定した得点につながります。
「平凡な答案」から「合格答案」に近づけるための3要素
小論文の得点を上げる鍵は、意見を述べた上で根拠を論理的・説得的に示すことです。内容自体よりも、展開のわかりやすさが評価を左右します。
まず、文章を意見→根拠→具体例の順に並べると、論理の流れが明確になります。接続詞を適切に使い、「なぜなら」「例えば」などで段階的に説明すると、読み手が理解しやすくなります。
次に、根拠の質を高めることが重要です。理由を複数挙げたり、具体的な事例を加えたりすることで説得力が増します。さらに、他の受験生と差をつけるには、独自の視点を加えるのも効果的です。ただし、極端な主張は逆効果になりやすいため注意が必要です。
つまり、「論理性」「説得力」「独自性」の3要素を意識すれば、平凡な答案を合格レベルへと引き上げることができます。
実際に慶應の小論文を突破した先輩の声

ここでは、塾選に寄せられた実際の慶應の小論文を突破して合格した人の声を紹介します。
個別指導で自信をつけた
小5から学習開始時の偏差値58の受験生の保護者の合格体験記には、以下のような記述があります。
ニックネーム:母親(40代)
このように、小論文対策は一人で抱え込まず、学校や塾の指導を上手に活用することが大きな支えとなります。特に慶應の小論文は学部ごとに特徴が異なるため、傾向に合った指導を受けられる環境に身を置くことが、合格への近道といえるでしょう。
集中学習と時事対策を意識した
高1から学習開始時の偏差値55の受験生の保護者の合格体験記には、以下のような記述があります。
ニックネーム:父親(50代)
このように、小論文対策は答案練習だけでなく、日常的に時事問題や社会的な話題に触れることが重要だとわかります。効率的な学習スタイルと幅広い知識のインプットを両立することで、安定した実力につながった好例といえるでしょう。
まとめ 慶應の小論文は学部ごとの特色に合った対策が重要!

慶應義塾大学の小論文は、学部ごとに形式も評価基準も大きく異なります。法学部では論理的な構成力、文学部では読解力と簡潔な表現力、SFC(総合政策・環境情報)では問題発見力や発想力など、それぞれの特色に沿った準備が欠かせません。
また、最新の入試制度の変更にも注意しつつ、基礎力を固めた上で過去問演習や添削を重ねることが合格への近道です。早い段階から計画的に学習を進め、自分の志望学部に合った対策を行うことが、慶應の小論文を突破する最大のポイントといえるでしょう。
実のところ、私自身も小論文を利用して大学に入っています。その後、小論文の指導に携わって数十年が経ちましたが、依然として有効な対策法が流通しておらず、他の教科と比べて合格に必要なレベルが低い印象があります。
これは見方を変えれば、適切なやり方を理解し、実践すれば、他の教科よりも少ないコストで合格ラインに到達できるということでもあります。小論文はまだまだ「おいしい」科目なのです。
小論文は知性や教養溢れる人々の職人芸ではなく、誰にでも習得可能な基本的技術の積み重ねに過ぎません(洋々は小論文を重視したカリキュラムを採用しており、総合型選抜・学校推薦型選抜では慶應、上智、一般選抜では慶應が最も合格者が多くなりますが、彼らは必ずしも進学校の生徒というわけではありません)。
小論文は一度習得すれば、自分の考えをプレゼンする、他人を説得するといった局面で絶大な威力を発揮します(素人相手の口喧嘩ではほぼほぼ負けなくなります (笑))。入試は元より、大学に入った後、社会に出た後により役立つ技芸ですので、この機会に飽くまで磨き上げて、人生をより謳歌する一助としていただければと思います。
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監修者プロフィール
「総合型選抜の個別指導塾 洋々」小論文責任者。有名予備校で現代文、小論文の講師を務め、洋々の創立メンバーとなる。テキストの執筆、模試の作成、映像授業への出講、多数。小論文は、「フレームワーク」と「フォーマット」を組み合わせた独自の指導法により、慶應や国公立後期への短期合格者を輩出する。北海道大学法学部中退。共著書に『採点者の心をつかむ 合格する総合型選抜・学校推薦型選抜』(2023年、洋々 著/かんき出版)。