倍率4.75の狭き門、咲くやこの花中学・芸術分野に合格!言語化力を育んだ朝散歩とは?|親たちの中学受験体験記 Vol.19
今回お話を聞いたのは、内部進学という選択肢もある中で、あえて大阪府立咲くやこの花中学芸術(美術・デザイン)分野の受験に挑んだ生徒のお母様です。毎朝10分のウォーキング、親子で机を並べて勉強する時間、子ども部屋のリニューアルなど、さまざまな習慣化と環境づくりに取り組み、見事合格を果たしました。
国語と算数のみならず、芸術分野の実技試験、そして「自分の考えを言葉にする」作文対策に注力した受験期間。1校のみの受験を選んだ親子の試行錯誤をひも解き、合格のヒントを探ります。
編集部
塾選ジャーナル編集部
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目次
【保護者プロフィール】
| お名前 | 佐々木 綾(仮名) |
|---|---|
| お住まい | 大阪府 |
| 年齢 | 41歳 |
| 職業 | 会社員 |
| 性格 | 外交的、行動派、楽観的 |
| 家族構成 | 4人家族(夫婦・娘・息子) |
【中学受験を行った子どものプロフィール】
| 子どもの名前 | 佐々木 奏(仮名) |
|---|---|
| 性別 | 女子 |
| 現在通っている学校名 | 咲くやこの花中学校 芸術分野 |
| 現在の学年 | 中学2年生 |
| 受験時にしていた習い事 | 馬渕教室 |
| 得意科目 | 国語・美術 |
| 苦手科目 | 算数 |
| 性格 | 社交的・人見知り・積極的活動的 |
| 偏差値 | 通塾開始時 :40前後 受験本番直前:50前後 |
| 受験結果 | 咲くやこの花中学 芸術分野 合格(第一志望) |
内部進学よりも優先したかった「芸術を学べる環境」。先輩や親戚の存在が後押しに
―本日はよろしくお願いいたします。まずは、中学受験を考え始めたきっかけから教えてください。
きっかけの一つは、「高校受験をすることなく、中高6年間を落ち着いて過ごせる環境に進学してほしい」という思いが私にあったことです。私自身が中高一貫校に通い、思春期をのびのびと過ごせた経験があって。勉強だけでなく、部活動や遊びにも夢中になれる学校生活を送ってほしいと考えるようになったんです。
―お子さんにも同じような環境で過ごしてほしいと考え、中高一貫校を受験しようと決めたのですね。
はい。とはいえ、実は娘が通っていた小学校も、高校まで内部進学が可能な私立の一貫校でした。なので、そのまま内部進学する選択肢もあったんです。
それでも外部の中学校を受験した背景には、「芸術のことを勉強したい」という娘の強い思いがありました。咲くやこの花中学は中高一貫校で、美術やデザインを専門に学べるコースも設置されています。まさに、私たち親子の希望に合致すると考えたんです。娘自身も進んで調べる中で、ますます行きたい気持ちが膨らんでいる様子でした。
―咲くやこの花中学は公立になりますが、その点も同校を志望した理由の一つでしたか?
公立か私立かは、あまり重要なポイントではありませんでした。それよりも、先ほども触れた中高一貫校であることや芸術が学べることを優先して、候補を検討していました。
実は娘が通っていた小学校でも、進路の話題になると「咲くやこの花中学」の名前がよく挙がっていたんです。なので、私にとっても娘にとっても、なじみのある学校ではありました。
―咲くやこの花中学が受験先の候補になったとき、娘さんの反応はいかがでしたか?
とてもワクワクした様子でしたね。通っていた小学校から、咲くやこの花中学へ進学した先輩が何人かいたことも、「受けたい」という気持ちにつながったようでした。
その先輩たちや美術関係の仕事をしている親戚から、具体的な話をいろいろ聞くことができたんです。そのおかげで、娘の中で将来のイメージがより明確になったようでした。親が説明するよりも、先輩や親戚の実感のこもった話のほうが響いたのだと思います。
高校より先も美術系の進路を見据えるなら、作品づくりや発表の機会が多い咲くやこの花中学の環境は、すごくよい選択肢になるかもしれない。さまざまな話を聞くうちに、娘も私もそう考えるようになっていきました。
\志望校・受験校選びのポイント/

“全科目完璧”は目指さない。2つの塾を併用した適性検査対策
―咲くやこの花中学の受験問題は、適性検査I、適性検査II、作文の3つで構成されています。全体としてはどのようなことを意識して、対策を進めていきましたか?
まず意識したのは、全部の科目で完璧を目指すのではなく、娘の得意・不得意を踏まえた全体のバランスを考えることでした。例えば、娘が最も苦手な科目は算数です。適性検査Iでは数字や資料を読み解いていく問題も出るため、受験前から苦戦するだろうと感じていました。
▼咲くやこの花中学芸術(美術・デザイン)分野の受験科
| 科目名 | 配点 | 試験時間 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 適性検査I | 50点 | 45分 | 国語・算数的問題(全分野共通) |
| 適性検査II | 80点 | 60分 | 分野別課題(実技など) |
| 作文 | 20点 | 15分 | 自己表現(300字程度) |
そこで、算数についてはいきなり全問正解を目指すよりも、まずは「まったく手が出ない」という状態から抜け出すのを目標にしたんです。そのうえで、最終的には問題文をスムーズに読み進めて、自分一人で迷いなく回答できるようになる。一方で、国語や芸術分野の実技は「点を取れるだけ取りたい」という狙いで、対策を進めていきました。
全体としては、得意な国語と実技で点数をしっかり積み上げつつ、苦手な算数はできる問題をきちんと拾って減点を最小限にする。なんとかそのバランスを実現して、合格へ結びつけたいと考えていました。
―そのためにも塾選びが重要になるかと思いますが、何を重視して選びましたか?
まず重視したのは、咲くやこの花中学の合格者を出しているかどうかです。電話で問い合わせる、Webでリサーチする、周囲の人に直接評判を聞く、見学に行く──それらを組み合わせて情報収集しながら、候補を挙げて検討していきました。
そのうえで、最終的には馬渕教室と絵画教室の2つに通うことを決めました。馬渕教室にした決め手は、同級生のお母さんに勧めてもらって参加した体験会です。そのとき娘が楽しそうな表情で帰ってきたことが印象に残っていて。保護者の間での評判も踏まえ、「ここなら国語や算数をきちんと見ていただけそうだな」と感じて決めました。
―馬渕教室では、具体的にどのような対策に取り組みましたか?
一言でいえば、国語と算数で点を取るための“土台づくり”です。特に算数は基本的な計算から文章問題まで、基礎を確認しながら少しずつレベルを上げていく、娘の成長ペースに合った進め方をしていただきました。
親としても、娘は今どこまでわかっていて、どこでつまずいているのかを相談できる相手がいるのは、とても心強かったです。送迎の際に講師の方から「今日はこの範囲までよく頑張っていましたよ」といった声をかけていただくことも多く、その短いやりとりだけでも、塾での様子が伝わってきて安心できました。
―お母様も講師とさまざまなコミュニケーションを取りながら、馬渕教室での対策を進めていったのですね。
はい。不安なことがあるときは送迎の際に聞いて、「今日はこの単元をやっています」「次はここをもう少し固めましょう」と、状況や今後の進め方を教えてもらえました。特に当時の塾長からは、的確なアドバイスをいくつもいただいて助けられた記憶があります。
振り返ると、算数の苦手意識をより早くから和らげるためにも、「もう少し前の学年から通わせてもよかったかもしれない」と感じています。それくらい、勉強面だけでなく、気持ちの面も含めて支えていただきました。
―実技対策として絵画教室にも通われていたとのことですが、どのような教室を選ばれたのですか?
咲くやこの花中学を受験する子が通っていて、実際に合格者も出していた絵画教室です。美大・芸大受験まで見据えた指導をしているところで、咲くやこの花中学の受験対策コースもある教室でした。実技指導のプロからのサポートを受けられる環境だったので、「ここならしっかり見ていただけそうだな」と感じて、お願いすることにしました。
―絵画教室では、具体的にどのようなサポートを受けていましたか?
過去の合格者の再現作品を見ながら、なぜこの構図が評価されたのか、手の角度はどう描くと自然に見えるかといったポイントを、一つひとつ具体的に教えてもらっていました。講評と実践を重ねることで、「当日の限られた時間の中で、どこまで描き込めるか」といった、合格に不可欠な“感覚”もしっかり身についたと思います。
何より娘にとって絵画教室は、勉強の合間に気持ちを切り替えながら、好きな絵にじっくり向き合える場所でもありました。学校や馬渕教室で忙しい時期でも、「絵画教室の日は楽しみ」という気持ちで、前向きに通えていたと思います。
\受験対策・塾選びのポイント/

毎朝10分の散歩と部屋のDIY。“言葉にする力”を育んだ親の関わり方
―ここまでは適性検査I・IIの対策についてが中心でしたが、もう一つ“作文”も科目に含まれています。この対策については、どのようなことを意識して進めましたか?
娘が自分の気持ちを言語化できるように、受験期間を通じて親子で工夫を重ねました。
咲くやこの花中学の作文は、ただ上手な文章が書ければいいというわけではありません。「なぜこの学校に入りたいのか」「ここで学んで将来どうしていきたいのか」といった、自分の思いや考えをきちんと言葉にして伝えることが、最も重視されている印象がありました。
受験勉強を始めた当初の娘は、「好き」「楽しい」という気持ちは強くあるものの、その理由や背景を説明するのは少し苦手でした。そこで、日頃の会話や作文練習の中で少しずつ、自然と言語化を進めていくための習慣を取り入れたんです。
―具体的にはどのような習慣を取り入れたのでしょうか?
毎朝10分ほど、私と一緒に近所を散歩する時間をつくりました。受験はもちろん、学校や友達のことなどさまざまな話題について、歩きながらざっくばらんに会話する時間です。
あまり“受験の話し合い”と身構えずに、自然な流れの中で内省と言語化を促すこと、そして娘の気分転換が狙いでした。机に向かって「さあ話し合おう」と構えてしまうと、お互いに緊張してしまって、本音も出にくくなる。でも、外の空気を吸いながら横に並んで歩いていると、自然といろいろな話ができます。
娘はどちらかというと感覚で話すタイプなので、ときどき話があちこちに飛んでしまうこともあって。「それって、つまりどういうこと?」「どうしてそう思ったの?」と私がゆっくり聞き返しながら、“一緒に言葉を探していく”イメージで会話を重ねました。その甲斐もあって、少しずつ自分の考えを短くまとめて話せるようになっていきましたね。
―日常生活の中で、無理なく続けられる方法を実践したのですね。ほかにも、受験期間に取り入れた習慣はありますか?
親子で机に向かう時間を、意識的につくるようにしました。といっても、私が“先生役”として勉強を教えるのではなく、同じ空間でそれぞれ自分の勉強をする、というイメージです。
例えば、娘が問題集に取り組んでいる隣で、私はパソコンを開いて資格の勉強をしたり、仕事をしたりしていました。親が一方的に教えたり、「勉強したの?」と言ったりするだけだと、子どもは抵抗を示すこともある。だからこそ、親も一緒になって真剣に学ぶことが、娘にとって一番の後押しになると考えたんです。
―中学受験では習慣に加えて、家庭での環境づくりも重要になります。何か工夫して取り組んだことはありましたか?
受験勉強が本格的になるタイミングで、まず娘の勉強部屋を整えようと考えました。完全に受験モードに切り替えるつもりで、壁紙やデスク、棚などを親子で一緒に選び直して、「ここで勉強したい」と思える空間につくり替えたんです。
棚を一緒にDIYしたり、「これはここに置こうか」と相談しながら配置を決めたりして、娘の“好き”が詰まった部屋にしていきました。自分でつくった場所だからこそ愛着が湧いたのか、今でもその部屋に行って、自然と机に向かうことが多いです。「勉強しなさい」と強く言うより、向かいたくなる場所を用意したことが、結果的に勉強時間の確保にもつながったのかなと思います。
本番直前でも“休む”を選べた理由。親子を救った「中学受験はゴールじゃない」
―ここまでさまざまな試行錯誤についてお聞きしてきましたが、受験期間を通して、特に大変だったことや苦労したことはありましたか?
いま振り返ると、6年生の冬に体調を崩してしまったことが一番大変でした。本番が近づいてきたタイミングで、「もう今日は塾に行けない」となる日が何度かあって。申し込んでいた冬期講習もあったのですが、結局きちんと行けたのは最初の1回くらい。その後は、ほとんどお休みすることになりました。
―本番直前のタイミングで塾を休むのは、保護者としても不安が大きかったのではないでしょうか。
そうですね。ここまでの期間、娘なりに頑張ってきた姿も見ていましたし、お世話になった方もたくさんいたので。「この時期に休んでしまって大丈夫かな」という気持ちは少なくなかったです。
ただ、夫とも話し合う中で、「今の状態で無理に通わせるよりも、いったん立ち止まったほうがいいのではないか」という結論になりました。体調がすぐれないまま、気持ちが追い詰められた状態で試験当日を迎えても、きっと力は出しきれないと思ったからです。
そこで、思いきって冬期講習はお休みしようと。家の中の雰囲気も受験一色から少し変えて、娘がリラックスして過ごせるように意識しました。
―そうした判断ができた背景には、ご両親のどのような考え方があったのでしょうか?
一番大きかったのは、咲くやこの花中学の1校のみを受けると決めていたことだと思います。
娘には、絵を本格的に学びたいという思いなど、“咲くやこの花を選ぶ理由”がはっきりとありました。だからこそ、今回はいくつも候補を並べて広く受けるのではなく、一つの目標だけを見据えて挑戦しようと、“1校のみ受験”を選んだんです。
もしうまくいかなかった場合は、そのまま系列の中学校に内部進学しようと決めていました。そのうえで、高校受験のタイミングで、また外部の学校へチャレンジする道もあると考えていたんです。そうした“次の選択肢”の話も娘と共有していたので、「これに落ちたらすべて終わり」と、必要以上に追い込まれずに済んだのだと思います。
もちろん、中学受験に向けて準備してきた以上、合格してほしい気持ちは強かったです。ですが、中学受験が人生のゴールではありません。そうした前提が親子の間で共有できていたことで、直前期に体調を崩しても無理せず、いったん休む選択ができたのだと感じています。
\受験サポートのポイント/

合格の鍵は“自分の言葉”。受験で育んだ力が入学後も生きる財産に

―迎えた入試本番の日は、お子さんにどのような声をかけましたか?
本人からも「いつもどおりでいたい」といった話が出ていたので、あえて特別なことは言わず、普段と同じように接していました。かなり緊張している様子ではありましたが、やってきたことをそのまま出してきてほしいと考え、「いつもどおりで大丈夫だよ」と伝えて送り出しました。
―結果は見事合格。知ったときはどのような気持ちでしたか?
「ああ、よかった」とほっとしたと同時に、驚きも大きかったです。倍率の高い学校ですし、直前に体調を崩したこともあって、落ちる覚悟もあるにはあったので。だからこそ、合格を知ったときはすぐに実感が湧かず、娘と一緒に何度も確認したのを覚えています(笑)。
―今回の合格につながった、一番の理由は何だと感じていますか?
一つ挙げるとすれば、娘が自分の気持ちや考えを、きちんと自分の言葉で話せるようになったことだと思います。最初は「絵が好き」「この学校に行きたい」で止まりがちだったのが、少しずつ「どうしてそう思うのか」まで説明できるようになりました。
先ほども触れましたが、咲くやこの花中学は作文を通して、志望動機を丁寧に見ている印象があります。日頃から親子の会話などを通じて、自分の気持ちを整理し、言葉にする努力を地道に続けたことが、最終的に合格へつながったのかなと感じています。
―最後に、これから中学受験を目指す親子へアドバイスをお願いします。
繰り返しにはなりますが、もし咲くやこの花中学を目指すのであれば「言語化」と「文章力」が特に大事だと、取り組む中で強く感じました。どんな目標を持って咲くやこの花中学に行きたいのか、入学後はどんなことをしたいのか──
それらを自分の言葉で伝えられるかどうかが、受験合格だけでなく、入学後の生活においても重要になるはずです。
実際、娘から入学後の学校生活の様子を聞いていると、自分の考えややりたいことを言葉や作品にできる子が多いと感じさせられます。そういう意味でも、普段から本を読んだり、文章を書いたりして、“自分の言葉”を育てておくことがとても大事なのかもしれません。もし近くに作文の対策まで見てくれる塾があれば、そういったところで練習するのも一つだと思います。
娘なりの言葉が出てくるようになって、今の学校生活にもよい影響を及ぼしていると感じます。受験の時期に“言葉にする力”に向き合ってよかったなと、いま振り返っても実感します。
\中学受験を振り返って感じたこと/

取材後記
お話を聞いていて特に印象的だったのは、合格のための対策が決して“机の上”だけで完結していなかったことです。毎朝10分並んで歩きながら言葉を交わす時間、子どもが自分から座りたくなるよう一緒につくり上げた部屋──
日々の生活の中に「自分の思いを言葉にする」という受験対策の鍵が、自然な形で溶け込んでいました。
結果にとらわれすぎず、子どもの心身の健康と「好き」を最優先したこと。そうしたご両親の覚悟があったからこそ、娘さんはプレッシャーに押し潰されることなく、本番でいつもの力を発揮できたのでしょう。中学受験における親の役割とは、子どもが安心して挑戦できる“日常”をつくることでもあるのだと、改めて気づかされた取材でした。
執筆者プロフィール
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