親たちの中学受験体験記 Vol.1 子どもの個性に注目し、親子で掴んだ合格
編集部
塾選ジャーナル編集部
中学受験の主役はもちろん子どもですが、その保護者にも受験を決意した日から結果発表までの期間、さまざまな思いや葛藤があります。受験を終えた保護者にインタビューを行い、保護者の視点から中学受験のリアルをご紹介します。
【保護者プロフィール】
お名前 | 和田 かなえ(仮名) |
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お住まい | 東京都世田谷区 |
年齢 | 48歳 |
職業 | 会社員 |
性格 | フルタイム勤務をこなしながら、3人の子どもを育てるパワフルなワーキングマザー。 自身に中学受験経験があるため、自然と子どもの中学受験を志す。 目標に向かって計画を立て進めていく過程をポジティブに楽しめる、明るく行動的な性格。 |
家族構成 | 夫、長男(中学2年生)、次男(小学4年生)、長女(小学2年生) |
【中学受験を行った子どものプロフィール】
子どもの名前 | 和田 はじめ(仮名) |
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性別 | 男子 |
現在通っている学校名 | 武蔵高等学校中学校 |
現在の学年 | 中学2年生 |
受験時にしていた習い事 | 理科の実験教室 |
得意科目 | 理科 |
苦手科目 | 算数 |
性格 | のんびり&おっとりマイペース男子。 理科の実験などマニアックなことが好きで構成的なタイプ。 物事を素直に受け止める柔軟さが強み。 |
偏差値 | 学習開始時の偏差値55/日能研偏差値平均64 |
一度きりの青春時代を楽しく過ごしてもらいたい。自然と決めた中学受験の道
―最初に、中学受験をすることにしたきっかけを教えてください。
実は、私自身が中学受験の経験者なんです。私にとって中学受験は大変ではありましたが、高校受験をスキップして中学・高校の6年間をまとまった時間として過ごすことができたことは、良い経験だったと思っています。
中学受験をしない場合は、高校受験をすることになりますよね。公立中学から公立高校に進む場合、「内申点が上がるから、委員会に立候補する」のような、内申点を取るための対応が必要になるという話をよく耳にします。
中学の3年間気が進まないことをしながら受験勉強をして、やっと高校に入学しても3年後にすぐに大学受験が待っている。特に長男は委員会やクラブ活動でリーダーになるようなタイプではなかったこともあり、中学・高校という一度しかない青春時代を内申点を気にしながら過ごすのは、つまらないだろうし、もったいない気がしたんです。
―通っている小学校がある地域の特性もあったのでしょうか?
はい。うちの地域では8~9割くらいのご家庭が中学受験をさせるため、公立中学に進学する子どもの方が少ないんです。周りの同級生が塾に行って勉強するのが当たり前な環境の中で、あえてマイノリティな方向に進むのは、子どもにとっても違和感があるのではないか?ということは考えました。
―ご自身のご経験と周りの環境を考えると、比較的自然な流れで中学受験を考えられたのですね。
そうですね。あと、息子に受験勉強をさせることを考えたときに、反抗期も出てくるであろう中学生男子に勉強させられる気がしないな、と思ったのも理由の一つでした。思春期真っただ中の中学生男子と「勉強しなさい」というバトルを繰り広げたくなかった……結果として小学生男子とのバトルになりましたけど(笑)。
でも、やはり中学生になってからの成長を見ると、小学生のうちで良かったかな、とは思っています。
新小学4年生の2月から通塾開始。最初は塾に入れるかも不安な中でのスタート
―塾に通いはじめたのは新小学4年生(小学3年生)の2月からということですが、お子さんはすんなり受験モードに入っていけたのでしょうか?
うちの長男は早生まれなこともあってすごく幼くて、のんびりおっとりしたタイプ。なので「なんだかわからないうちに、塾に連れていかれて気付いたら通うことになっていた」という感じのスタートでした。しっかり説明してもまだわからないだろうから、私も「とりあえず行ってみよう!」と連れて行ったので、彼にしてみたら、気が付かないうちにすごいことに巻き込まれていたと感じていたんじゃないかな、と思います。
―通塾開始時期を新小学4年生の2月と決めた理由などはありますか?
新小学4年生からのスタートが、中学受験ではスタンダードと言われています。それより早くても遅くても、いずれにしてもついて行けないのではないかと思い、3年間で頑張ることにしました。
というのも、小学1~2年生の頃は公文に通っていたのですが、計算のスピードを上げていくという公文の大前提を理解できず、問題を解かずにじっとしているようなマイペースな子だったんです。なので、当初は「塾に入れるかもわからないから、テストに受かって入塾できたら通わせよう」くらいの気持ちでいましたね。
―通う塾はどのようにして決められましたか?
塾は、私自身が通っていたこともある日能研に決めました。家から歩いていけるところや、お弁当が注文できるシステムがあったことも魅力でした。日能研の特徴的な仕組みとして、成績順で出席番号や席順が決まるんですよね。私も子どもの頃にそれで「頑張ろう!」と思えたので、うちの子にとってもうまくモチベーションにつながるといいな、という期待もありました。
成績が上がり始めた小学5年生。得意とする理科の実験教室に通い始め覚醒
―塾に通い始めてからの、学力の変化について教えてください。
新小学4年生で入塾したときの偏差値は4教科平均55くらいでした。通っていた日能研は小規模校だったので、全部で3クラスあるうちの上のクラスに在籍はしていましたが、その中では後ろの方くらいの成績でしたね。
成績に良い変化が見られ始めたのは、小学5年生のときに理科の実験教室に通い始めてからです。中学受験の理科の勉強を実技を通して学ぶというのがコンセプトの教室で、理科は座学では学びにくいなと思っていたところママ友のSNSの投稿でこの教室を知り、通わせることに決めました。教室に通っている子のレベルが高くて、最初はついていくのがやっとでしたが、実際に手を動かして理解するスタイルが息子には合っていたようで、理科の成績がぐんと伸びたんです。それに引っ張られるように、他の科目も上がっていきました。
小学6年生でようやく塾のクラスでの成績が1番になって。日能研では、1番になると出席番号もわかりやすく1番になります。それで本人も、「1番をもらったのだから、成績を下げるわけにはいかない」という気持ちになり、頑張らなきゃと思ったようでした。うまく子どもの気持ちを乗せながら伴走してくれた日能研には本当に感謝しています。入塾した頃と比べると、「他の人からどう見られるか」という他者の視点を意識するようになったんだ、という成長も感じました。
―理科の実験が好きだから、ということから志望校を武蔵高等学校中学校に決められたそうですね。
そうなんです。武蔵高等学校中学校は理科の受験問題が特徴的で、ペーパー問題だけでなく“お土産問題”と呼ばれる、実技問題が出るんですね。受験問題で実技の問題を出すということは、学校側も実践が得意な生徒を求めているということ。2次元の世界ではなく現物に触れることを大事にしているのだと感じ、抽象概念よりも目に見えるものが好きな息子にすごく合うんじゃないかと思いました。
実際、息子は“お土産問題”を解くのが好きでしたし、得意でもあったので、第一志望校は武蔵に決めました。ただ、武蔵は“御三家”と言われる名門校。学力面を考えると最初はかなり厳しいと思っていましたね。でも、もう本人が受けたいという気持ちになっていたので、これは武蔵を目指して頑張るしかないな、と覚悟を決めました。
―お子さんの個性や好きなことを優先したいというお母さまの気持ちが感じられますね。
向いていないことを無理やりさせるより、向いていることをそのまま伸ばす方が効率はいいのかな、と思うんです。なので、受験とは関係なく子育てするうえで「この子は何ができるんだろう?何が好きなんだろう?」ということは、常に考えていました。
小学6年生で陥った2度のスランプ。ラストスパート、どう乗り越えた?
―これまでに頑張った成果が表れ始めた小学6年生。しかし、春と夏に2度のスランプがあったとか。
初めてのスランプは、小学6年生の5月頃。運動会の疲れと成績が伸び悩んだことで元気がなくなってしまったんです。こういうときは勉強しても仕方がないと思って、休みの日の勉強をやめて秋川渓谷に連れて行きました。気分転換のために高いところからジャンプして川に飛び込んだり、魚を追いかけたりして自然と触れ合ったら元気が出たようです。
2度目は、夏休み明け。夏季講習の疲れが残る中、過去問演習が始まって、勉強時間が一段と増えたことで、また元気がない様子が伺えました。なので、私から「今日は塾に行くのをやめよう」と提案して、妹と3人で出掛けたんです。すぐに行ける東京の観光地ということで「東京スカイツリー」に行ったのですが、現地で高さが634(ムサシ)メートルだと気が付いて。本当に偶然だったのですが、運命を感じましたね(笑)。
スカイツリーで“634”と大きく書かれたマグカップを買って、展望台のパワースポットに「武蔵合格!」と書いた短冊を飾って帰ってきたら、気持ちが落ち着いたようです。このときに買ったマグカップは、受験中ずっと愛用していました。これ以降、合格祈願のお賽銭を634円にしたり、息子が受験の日に6時34分に家を出ると言ったりして、「634」は我が家のキーワードになっていました。
―塾を休ませるのは勇気が必要な決断だったと思います。休ませようと決めた裏側には母親としてどんな気持ちがあったのでしょうか?
無理して勉強しても何もいいことはないと思ったので思い切って休ませましたが、これが正解だとは全く思っていなかったです。結果として、気持ちを切り替えてまた頑張ってくれたから良かったのですが、「今日塾ですごく重要なことを言っていたらどうしよう」「これがきっかけで緊張の糸が切れて全然勉強しなくなったらどうしよう」と、焦る気持ちはありました。でも、最後はなるようにしかならないので、今は休もうと決めました。
―夏のスランプ以降、お子さんの気持ちは安定していましたか?
良くも悪くも鈍感力の強い子なので、その後は冬休み明けまでそんなに追い詰められたりはしていなかったように思います。1月の中頃に志望度がそこまで高くなかった中学校の受験が不合格で、そのときは悔しかったようですごく泣いて……第一志望校の受験の2週間前なので、だいぶ遅くではありますが、やっと気持ちのスイッチが入ったようでした。
―受験期間は、お子さんはもちろんご家族も大変ですよね。サポートは、主にお母さまがメインでされていたのですか?
そうですね。夫には塾の送り迎えなどの物理的な面でのサポートをしてもらい、勉強の計画を立てたり一緒に勉強したりというのは私が主体となって伴走しました。
まだ小さかった下の妹が一緒に寝たがることもあったのですが「お母さんはお兄ちゃんと勉強するから」と我慢をさせたこともありました。ただ、「今はお兄ちゃんに付きっきりだけど、あなたの順番もくるからね」ということは、言葉にして伝えるようにしていました。
―サポートするうえで、特に大変だったことやストレスを感じたことはありますか?
大変だったのは、フルタイム勤務で仕事をしながら時間を捻出することです。コロナの影響でフルリモートの在宅ワークだったので、家事を工夫しながらなんとか時間を作って乗り切った感じですね。
もともと情報収集をして計画を立て、問題を解決していくのが好きなタイプなので、勉強計画を立てたりするのは苦ではありませんでした。不安な気持ちになったらブログに思いのたけをぶつけたり、SNSでつながった同じ受験年度の中学受験をするお子さんがいるママ友と励まし合ったりすることが心の支えになっていました。
でも、一番つらかったのは当の本人なので。大人でも嫌だと思うような場面でも立てた目標を淡々とクリアしていく姿を見て尊敬することも多々ありました。すごく成長したし、本当によく頑張ったと思います。
「やるだけやってダメならそれでいい」力を出しきり第一志望校に合格
―受験ラストスパートの時期、お子さんにはどんな言葉をかけていましたか?
息子には「やれることは全部やりなさい。やるだけやってダメならそれでいいから」と伝えていました。気休めではなくて、やれるだけやることで合格も不合格も怖くなくなるはずだから、その境地にたどり着いて欲しかったんです。第一志望校の受験当日の朝は「今日という日は1日だけだから、楽しんできなよ」と言いました。そのときは、精一杯やりきったのだから、結果落ちても受かってもどっちでもいいと思っていましたね。
「もっと計算力をつけていれば受験で楽だっただろうな」というように、勉強に関してこうだったらよかったということは思い浮かぶのですが、受験期間の過ごし方について後悔していることはありません。息子と私ができる限りのことは、全部やったんじゃないかな、と思います。
―結果、みごと第一志望の武蔵高等学校中学校に合格。今は自由な校風でのびのびと学校生活を謳歌(おうか)しているそうですね。いま、中学受験を振り返って何を思いますか?
入試の「お土産問題」で配布されたカラビナ。今も大切に使っている。
受験する学校を選ぶときは、私は自分の息子を放流する川を探している気分でした。流れが速い川なのか、水が澄んだ川なのか、どんな魚が周りに泳いでいるのか……どんな川なのかはわからないけれど、放流することはもう決まっている。では、どんな川が彼には向いているんだろう?と、ずっと考えていました。
結果、「武蔵高等学校中学校」という川の門が開き、彼は今その水の中をスイスイと自由に泳いでいる。改めて振り返ってみると、そんな風に感じています。今はもう遠くに行っちゃって、どこをどう泳いでいるのかよく見えません(笑)。
取材後記
子どもの個性に寄り添い、その個性に合った環境を一緒に探されたということがとても印象的でした。学校を選ぶ際の「自分の息子を放流する川を探している気分だった」というお話しからも、子どもの未来を真剣に考える母親の気持ちを強く感じました。中学受験全体を通じて学力面はもちろん、内面の成長を肌で感じたというエピソードも子どもの成長スピードや頑張りを感じて思わずぐっときてしまいました。中学受験全体を通じて、親も子も共に成長し、絆を深めるような貴重な時間を過ごしたことが伝わってきました。
執筆者プロフィール
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