中学受験を乗り越え私立中に進学も、娘は不登校に…。母が選んだ「ニュージーランド移住」の道
中学受験を経て私立中学校へ進学したものの、中学1年生で不登校になった長女。次女にも登校を渋る様子がありました。そこで松井さんは、子どもたちの環境を変えるため、ニュージーランド・オークランドへの親子留学(母子での教育移住)を決断しました。
松井さん自身、語学力に自信があったわけではなく、海外で暮らすことも想像していなかったといいます。それでも短期留学や現地下見を経て、「うまくいかなければ帰国すればいい」と移住へ。
学校選びや転校、費用、子どもたちの変化、今後の進路まで、現地で親子が試行錯誤しながら過ごした3年間のリアルを伺いました。
編集部
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目次
【保護者プロフィール】
| お名前 | 松井 礼子(仮名) |
|---|---|
| 年齢 | 47歳 |
| 移住前の居住地 | 東京都 |
| 家族構成 | 四人家族(父・母・長女・次女) |
【子どものプロフィール】
| 子どもの名前 | 長女:芽依/次女:結菜(仮名) |
|---|---|
| 性別 | 二人とも女子 |
| 現在の年齢 | 17歳・12歳 |
| 性格 | 長女:内向的、人見知り、多趣味なインドア派 次女:天真爛漫、明るい、ちょっと繊細なインドア派 |
【移住の概要】
| 移住先 | ニュージーランド・オークランド |
|---|---|
| 移住時期 | 2023年2月 |
| 移住形態 | 母子移住 |
| 子どもの年齢(移住当時) | 14歳・9歳 |
| 学校 | 語学学校(長女のみ)・現地校 |
| 学費 | 年間400万円弱(姉妹二人分) |
| 準備期間 | 5~6か月 |
| 見学した学校数 | 2校 |
不登校からの再スタート──ニュージーランドへの移住を決意した理由
―まずは、教育移住を考え始めたきっかけを教えてください。
長女が中学1年生の2学期から不登校になったことです。
長女は内向的な性格ですが、中学校では学校生活を充実させたいという思いもあったようです。最初に希望していた学校行事の委員には抽選で外れてしまい、それなら別の行事に関わろうと委員になりました。ところが、担当の教師が高圧的で、ちょっとした失敗を強く責められることもあったそうです。それで萎縮してしまい、「学校に行きたくない」と言うようになって。行事が終わったら行こうと話していましたが、結局そのまま行けなくなりました。
また、通っていたのは私立の中学校だったので、電車に乗って時間をかけて通学する必要があります。長女はもともと学校が好きなわけではありません。それなのに毎日早起きして登校しなければならないことも負担だったようです。複数の要因が重なって行けなくなったのだと思います。
不登校になってから最初の3か月間、長女は外に出られないくらい落ち込んでいました。それでも、少し元気になってきたら頻繁に「暇だ」と言うようになって。ある会話の中で、長女が「将来はカナダに住んでみたい」と言い出して。そこで私は「どうせ学校に行けなくて暇なら短期留学にでも行ってきたら?」と提案し、軽い気持ちで送り出しました。
たった2週間でしたが、長女は現地の語学学校に毎日通い、ホストファミリーとも仲良く過ごせたようです。英語は中学校に入ってから勉強すればいいと考えていたので、短期留学したときの長女の英語力は決して高くありませんでした。過去の海外旅行ではカフェでの注文を英語でしたこともありますが、本当にそれくらいです。その程度の英語力でも意外と現地の学校に馴染めるとわかり、海外で学生時代を過ごさせることも選択肢の一つとして考えられるようになりました。
ちなみに、次女は日本で毎日学校に行ってはいたものの、毎朝登校を渋る様子があって。だから、次女も一緒に海外へ行ったら合うかもしれないと思いました。
―短期留学に送り出す時点で、海外への教育移住も見据えていたのでしょうか?
そこまで考えていませんでした。短期留学を勧めたのは、長女にもっと広い世界を見てほしいと思ったからです。長女は自分が通っていた日本の学校という狭い世界の中で「自分はあれもできない、これもできない」と塞ぎ込んでいたので。言ってみれば、気晴らしの旅行に行かせるような感覚でした。
―海外への移住を考える前に、国内での転校は検討されましたか?
国内の別の学校や通信制も考えました。
長女が通っていたのは私立中学校だったので、自宅から通える公立中学校への転校も選択肢としてはありました。ただ、長女は中学受験を頑張ったという自負があります。わざわざ受験して私立中学校に入学したのに公立中学校へ転校するというのは、長女の気持ちを考えると難しかったです。
ほかに、東京以外の地方に家族で移住する話も出ていましたね。夫は出張で家を空ける日が多く、どこに自宅があっても飛行機で帰ってくる手間はあまり変わりません。あとは通信制の学校も考えました。とはいえ、同じ日本なら、国が決めたカリキュラムは同じじゃないですか。だから地方へ移住しても、通信制の学校を選んでも、根本的な環境をガラリと変えられるわけではないという懸念がありました。この点については次女に関しても同様です。
最終的に海外留学を選んだ理由は、国内の別の学校、通信制、海外留学の3つの中でいちばんハードルが高いと思ったから。夫と相談する中で、まずは最もハードルが高いところからやってみて、もしうまくいかなかったら別の方法を試せばいいという結論に辿り着きました。
私はどちらかというと保守的なので、日本の教育をしっかり受けたうえで海外に行くべきではないかと考えなかったわけではありません。ただ、夫は楽しさや目新しさに惹かれるタイプで、夫の後押しがあったからこそ決断できたと思います。
―移住先の候補として複数の国を検討したそうですね。その中で、なぜニュージーランドを選んだのでしょうか?
下見を兼ねて約1か月間ニュージーランドへ旅行し、言葉がわからなくても楽しんでいる子どもたちの様子を見て決めました。オークランドは観光だけでしたが、郊外の学校には短期間通ってみたんです。郊外でのどかな雰囲気だったので、東京にいるときよりも子どもたちがリラックスして過ごせている気がしました。
YouTubeやXなどで発信されている、現地で暮らす日本人の意見を聞けたのもありがたかったです。個別に連絡したら、オンラインでお話を聞かせてくれた方もいました。
ニュージーランドの教育は、柔軟性があるところも魅力です。入学時に過去の成績表を提出する必要がなく(※)、不登校からやり直したい長女にとってありがたい環境だと感じました。それから、ニュージーランドの学校は基本的に教科書がありません。やらなければならないことはしっかりやりますが、先生の判断で状況に応じた学習ができるところも娘たちには合っていると思いましたね。
※出願時に直近の成績表(英訳)の提出を求める学校もあります。詳細は各校の募集要項をご確認ください。
あとは円安になりつつあるものの、ニュージーランドドルはまだ1ドル100円を超えていません。家計との相性も比較的よかったというのもあります。

松井さん親子が暮らすエリアからオークランド中心部へ向かう、フェリーの船上で見た街並み。

自宅近くの散歩コース。朝早く起きた日は、登校前に訪れることもあるという。

学校選びと転校──子どもたちにとってベストな学校を見つけるまで
―移住先では、どのような学校を選びましたか?
長女は郊外でホームステイをしながら、最初の1年間は語学学校へ。その後、ホームステイを継続して現地の高校に通い始めました。
次女の小学校については、現地で借りた家からの近さですね。私たちは親子留学を希望していたので、学校を選ぶ前に家を決める必要があって。治安がよいエリアの物件が見つかり、そこの学区の学校に入りました。
―その後、お姉さんも妹さんもそれぞれ別の学校に移ったと伺いました。どのような経緯があったのでしょうか?
長女は郊外の田舎の雰囲気に少し不満を抱いていました。自然が豊かな反面、高校生が楽しく遊べるような場所はあまりありません。それに、ホームステイを何年も続けるとなると、やはり費用の負担が大きくなります。長女が望んでいるなら、私と次女と同じ家に住んでオークランドの高校へ通うほうがいいと判断しました。ニュージーランドの高校は4学期制で、高校1年生の2学期から新しい学校に通っています。
次女は最初の学校で友だちもできて楽しく通えていたのですが、めまいや吐き気の症状が出て外に出るのも難しい状況になりました。病院で検査しましたが、体の異常は見つかりません。医師曰く、いきなり言葉がわからない環境に来てストレスがかかり、体が反応しているのではないかと。
実は、通っていた小学校は、英語を母語としない子どもをサポートする「ESOL(※)」を採用していませんでした。現地で知り合った方に相談する中で、ESOLがある別の学校で学んだほうがいいと感じましたね。
※ESOL:English for Speakers of Other Languagesの略。英語を母語としない人向けの英語教育・支援のこと
何校か見学し、本人が行きたいと言った小学校に転校しました。もともと通っていた小学校は徒歩で行けましたが、いま通っているところは車で15分くらいです。一時は日本への帰国も考えるほど悩みましたが、転校で解決できてよかったと思います。
―転校により、お子さんの様子は変化しましたか?
長女は精神的に安定したと思います。ホームステイではなく、親元で過ごすほうがやっぱり安心できますから。また、転校先のほうが長期で留学している日本人が多いです。母国語で冗談を言い合ったり、悩みを話したりできる気の合う友だちができました。
次女はESOLで細やかなサポートを受けられるようになり、以前の症状は落ち着いています。転校先の先生は英語がわからない子への接し方に慣れており、安心です。ESOLのレッスンを行うだけでなく、普段の授業もサポートしてくれています。課題や宿題も次女のレベルに合わせて出してくれるので、転校してよかったです。
―留学の目的はお子さんたちの不登校や行き渋りの解消でしたよね。その点については、いかがですか?
子どもたちは、いまだに「面倒くさい」と言う場面があります。ただ、話をよく聞いてみると「朝の支度が面倒くさい」という意味らしく、学校そのものが嫌なわけではないようです。移住してから、学校に対する認識がポジティブな方向へ変わったと思います。
また、長女は日本で不登校だった頃、「生きている意味がない」とこぼすことがありました。でも、この前飛行機に乗ったとき、こう言ったんです。「過去の飛行機事故で生き残った人が座っていたのは、後ろの席なんだって。私は死にたくないから、なるべく後ろの席がいい」と。以前とは真逆の考えになっていることに驚きました。
子どもたちは二人とも日本が大好きで「日本に帰りたい」といつも言っています。それでも学校という枠組みに入るとなると、やっぱり日本よりニュージーランドの環境が合っているようです。
―ニュージーランドと日本の学校の授業は、具体的にどのような違いがありますか?
ニュージーランドの学校は実践的な授業が多いです。次女の学校では、まるで仕事のようにチームでお店を出すプロジェクトに取り組んでいます。商品の原価を調べたり、お店のロゴを自分たちでデザインしたり。夜にオンライン会議を開いて話し合いもしていました。地元の企業へプレゼンテーションを行い、最終的に選ばれたチームが実際にお店を開いたそうです。
長女の学校に親が関与する場面は少なく、授業の詳しい内容はわかりません。印象としては、やはり社会ですぐに役に立つ授業が多そうです。

長女が学校で履修したダンスの「ショーケース」に出演した際のポスター。

次女がオークランドで最初に通った学校のクラスメートたち。友だちもでき、楽しく通っていた。

最初の年はエージェントに30万円──移住前の準備と、かかった費用
―移住や留学の準備はどのように進めましたか?
移住や留学のための手続きは、エージェントにお任せしました。
我が家のような親子留学は、ビザが却下されるケースはほとんどありません。それでも、エージェントが必要な書類や手順を案内してくれたため、迷わず準備を進めることができ、とても助かりました。
特に、ありがたかったのは、現地での家探しのサポートです。土地勘が一切ないうえに、文化や言語の壁もある中での家探しは本当に大変でした。オークランドの物件は人気で内見に何十人も予約が入るそうで、私たちだけで契約を勝ち取るのは難しかったと感じています。
エージェントのアドバイスもあって、実際に住む2か月前から契約して家を確保しました。エージェントが保証人のような立場になってくれたおかげで、スムーズに家を借りられたのだと思います。家賃はエージェントを介して支払っていました。
―移住前の準備でいちばん大変だったことは何ですか?
夫が東京に残り、移住したのは私と子どもたち二人です。もともと暮らしていた家は広いため、ニュージーランドへの移住前に都内でも引越しをしました。留学の準備と引越しの準備を同時に進めるのは、とても大変で。
次女は公立小学校に通っていたので、引越しから留学までの数か月はそのまま同じ学校に通いました。通学路がわからないので、登下校は付き添いが必要です。夫は仕事が忙しく不在なことが多いため、すべて私一人でこなしていました。
―家族の拠点が2つになり、かかる費用は移住前後でどのように変化しましたか?
ニュージーランドでの生活費は、家賃と私が日々の生活費として受け取っている分で月50万円ほどです。ただ、実際にはそれ以外にも、姉妹の塾代やガソリン代、各種保険料、光熱費などを夫が別途支払っています。それらも含めると、こちらでの生活にかかる費用は月60万~70万円ほどになると思います。
なお、一時帰国のための航空券代や海外旅行保険、子どもたちの学費はこの金額には含まれていません。
ニュージーランドは食料品が高く、食費は増えました。ただ、東京にいた頃よりも身なりにかけるお金が少なくなり、その分で補填できています。
負担が増えたのは、やっぱり学費ですね。二人分で年間400万円弱かかっています。留学のための支出が増えたので、貯蓄に回せるお金が少し減りました。
―エージェントに支払っている費用は、どれくらいですか?
初年度は、1年間で30万円くらいかかったと思います。私自身があまり英語が堪能ではないため、最初はフルでサポートしてもらえるプランを選びました。ビザの手続きはもちろん、家の契約や電力会社への連絡など、移住やその後の生活に必要な支援をひととおりお任せできて心強かったです。
移住を始めて4年目の現在、エージェントに支払っている費用は年間10万円くらいかと。いまでも、ビザに関してはすべてお任せしています。あとは家賃や水道代などの振り込みもお願いしていますね。夫が日本からエージェントにまとめて送金し、それぞれの支払い先に支払ってもらっています。それ以外にも困り事を相談すれば柔軟にサポートしてもらえるので、欠かせない存在です。

オークランドのスカイタワー展望台で過ごす姉妹。眼下にはCBD(市街地・中心業務地区)が広がる。

オークランドの公園で開かれていたイベントの様子。広々とした公園も、現地での暮らしに身近な存在。

選択肢はいろいろある──意識の変化と子どもたちの進路
―移住してみて、日本との大きな違いを感じた部分はありますか?
学校には、いろいろな子たちがいます。たとえば、りんごジュースを入れた水鉄砲を持って校内で遊んでいる男子がいたそうです。長女は、りんごジュースをかけられてベタベタになったらしくて。こんなふうに、つい笑ってしまうような出来事がこちらではよく起こります。長女は「こんなしょうもないことをする人たちがいるんだから、私は全然マシだ」と思うようです。もともと長女は自己肯定感が低かったのですが、いまではそうでもなくなってきました。
―松井さんとお子さんたちの中で、移住したからこそ変わったと感じることはありますか?
私はもともと保守的なタイプです。でも、ニュージーランドに来てからは、柔軟な考え方ができるようになりました。もちろん、最低限やらなければならないことはあります。それでも、一つの決まりきった正解があるわけではなく、やり方はいろいろあると考えられるようになりました。
子どもたちも、将来の捉え方がより自由になったように思います。いい大学に入っていい企業に勤めることが必ずしも正解なわけではないと、日々の生活を通して感じられているのではないかと。
―お子さんたちの進路はどのように考えていますか?
長女は日本の大学を受験する予定です。職人気質なところがあるので、本人が希望するなら何かに特化した専門学校に行くのもアリだと考えています。留学したからといって、必ず帰国子女として大学受験をしてほしいとは思っていません。やりがいを感じられる仕事を自分で見つけてほしいですね。進学は日本でしますが、その後は日本以外で働く可能性もあると長女は考えているようです。
次女はいま、日本の学年だと中学1年生です。ニュージーランドでは「インターミディエイト・スクール(Intermediate School)」をもうすぐ卒業するところ。この前、来年2月に入学する「セカンダリー・スクール(Secondary School)」がようやく決まりました。おそらく次女は長女と同じく、大学入学前までニュージーランドで過ごす見通しです。
次女は9歳からこちらに来ているので、日本の大学に進学するとなると日本語のレベルが不十分な可能性があります。そのため、海外のどこかの大学か、日本に戻るとしても英語で授業を受けられる大学がよいかと。
―最後に、これから教育移住を検討されている方へアドバイスをお願いします。
私たちは不登校からの脱却を目指して親子留学を決断しました。何か問題を抱えている場合、ベストな解決方法は人それぞれだと思います。しかも、その方法がすぐに見つかるとは限りません。
海外に移住するにしても、やってみて無理だったら別の道を考えようという気構えが必要な気がします。絶対に失敗できないと思っていると、子どもにとっても親にとってもプレッシャーが大きいです。もし馴染めなければ「海外で過ごせて楽しかったね」と言って帰れるような“気持ちの軽さ”があるといいと思います。
私も迷いはずっとあり、本当にこれが正解だったのだろうかと考えるときも少なくありません。それでも子どもたちがなんとか馴染めているので、留学を続けられています。うまくいかなくてもあまり気にせず、次の手段を試してみること。やっぱり、そういう気持ちで臨むことが大事だと思います。

取材後記
取材を通じて印象的だったのは、松井さんの考え方の柔軟さです。ご自身はもともと保守的で、まさか自分が海外で生活する日がくるとは思っていなかったとおっしゃっていました。そのような中でもベストな方法を考え、お子さん二人を連れて海外で生活するという決断をされています。
まずはハードルの高い海外留学をしてみて、馴染めなければ帰ればいい。うまくいかなかったら次の方法を試そう。そんな“気持ちの軽さ”があるからこそ、思い切って行動を起こすことができています。
また、言語や文化の異なる海外への教育移住では、手続きも煩雑になりがちです。松井さんはエージェントを活用し、手間をうまく省いています。今回のお話を通して、チャレンジを妨げる要因をなるべく減らし、できるだけ身軽な気持ちで挑むことが大切だと感じました。
執筆者プロフィール
塾選ジャーナル編集部です。『塾選ジャーナル』は、日本最大級の塾検索サイト『塾選(ジュクセン)』が提供する、教育・受験に関する総合メディアです。保護者が知っておきたい受験や進路情報をお届けします。
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